久しぶりに村上龍の小説を読みました。
「最後の家族」です。
![]() | 最後の家族 (幻冬舎文庫) |
村上 龍 | |
幻冬舎 |
学生の頃は、「コインロッカー・ベイビーズ」、「愛と幻想のファシズム」、「五分後の世界」など、壮大でメッセージ性の強い村上龍の小説をよく読みましたが、いつの頃からか、ほとんど読まなくなりました。
なんでだかは分かりません。
骨太な物語が、私を疲れさせたのかもしれません。
「最後の家族」はメッセージ性こそ強いものの、どこか地味で、安心感を覚える作品でした。
リストラに怯える父親、自室に引きこもりながらも、向かいの家のDV被害にあっている主婦を救おうと奮闘する21歳の長男、元引きこもりで、今は宝石デザインの仕事をしている青年と不思議な付き合いを続ける女子高生の長女、そして、年下の大工と密かにデートを重ねる主婦の、4人の家族の物語が、それぞれの視点から語られます。
それは小さな物語ですが、だからこそ、切実な物語でもあります。
そこで、救い、ということが語られます。
引きこもりの長男を救いたい母親、向かいの家のDV被害者の主婦を救いたい長男、リストラが現実味を帯び、救いのない父親、宝石デザイナーの男に救いを見出す長女、大工の若者との逢瀬に、つかの間救われる主婦、などなど。
誰もが自分だけの問題や悩みを抱えています。
それはどうやって救われるのでしょうか。
そんなことを考えさせられます。
長男が、向かいの家の主婦を救うために相談に行った弁護士事務所で、弁護士から、
親しい人の自立は、その近くにいる人を救うんです。一人で生きていけるようになること。それだけが、誰か親しい人を救うんです。
と語りかけられるシーンはきわめて印象的です。
ラスト、家族はバラバラに暮らすことになりますが、どこか明るく、ほほえましい印象を残します。
それぞれが自立しようともがくラストを提示することで、救いの根源的な姿を見せ付けられた思いです。
久しぶりに村上龍の作品を読んで、未読の作品をもう少し読んでみたくなりました。