欲望

文学

 小池真理子先生の「欲望」を読み終わりました。

欲望 (新潮文庫)
小池 真理子
新潮社

 中学生時代の同級生、類子と阿佐緒、それに正巳という3人をめぐる長い物語です。

 阿佐緒は中学生時代から、男なら誰もが欲望を抱くような肉感的な美少女でしたが、彼女の精神は極めて幼稚です。
 類子は読書が好きな文学少女で、容姿は十人並み。
 正巳は逞しくも美しい少年で、文学少年です。

 類子を語り手に、この3人の愛と欲望の物語が綴られます。

 ポイントは、正巳が逞しい美青年に成長したにも関わらず、高校時代の事故により、性的不能に陥ってしまうこと。

 類子は司書教諭として働きながら、同僚の妻子ある男性教師と肉体だけの関係を断ち切れずにいます。
 しかし類子が恋焦がれてやまないのは、不能の正巳。

 正巳は肉感的な阿佐緒に惹かれながら、どこか神々し過ぎて、類子に現実的な恋を求めます。

 阿佐緒は30歳も年上の、耽美主義的傾向を持った精神科医と結婚し、セレブ生活を送りますが、夫が自分の体を求めないことから、住み込みの家政婦と出来ているのではないかと疑い、勝手に妄想を膨らませ、根拠の無い嫉妬に苦しみます。

 類子は肉欲を不倫で解消し、正巳との精神的な純愛に溺れます。

 それにしても不思議なのは、類子が肉欲と精神的な愛を峻別していること。

 男にはそういう面が確実にあると思いますが、女性もそうなのでしょうか?

 物語は悲恋の様相を呈し、阿佐緒と正巳が相次いで、自殺とも事故死ともつかない死に方をし、類子は失意の中、穏やかな学者と結婚し、その生活に満足を覚えながら、どうしても、耽美主義的で、冷笑的な、自分の人生を自分で演じているような、阿佐緒の夫の消息をたどろうとします。

 そして、作中、嫌というほど、三島由紀夫への言及がみられます。
 そもそも精神科医が三島の大ファンで、神奈川に三島邸そっくりの家を建てるほどです。

 象徴主義の絵画(私も好きですが)を愛好し、妻ですら、まるで美しい装飾品のように扱います。

 私は高校時代、文庫本で手に入る三島作品をすべて読んでいますので、言及することで言わんとする意味は分かりますが、ちょっとしつこいな、と感じました。

 性描写が多く出てきますが、しかし、性的不能者である正巳とのそれは、なぜか、他の誰よりも官能的です。

 直木賞受賞作「恋」のような完成度にはかないませんが、特殊な状況での人間の性愛を描くという点では、「恋」に連なる、優れた作品だろうとは思います。

恋 (新潮文庫)
小池 真理子
新潮社

 しかし、不能の美青年というモチーフが、なんだかあざとい感じがして、もう一つ、物語に入り込めなかったことは残念です。 


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