演じる

仕事

 日曜日の夕方を迎えてしまいました。
 一週間のなかで最も憂鬱な時間です。
 毎週のことながら、明日からの仕事に怯えながら過ごしています。

 若い頃は、勤め人も50歳を過ぎれば豊富な経験から仕事に怯えることも、日曜日の夕方に落ちることもないのだろうと思っていました。
 しかしそれは大間違いでした。
 むしろ年齢ゆえの立場や役割が重くなり、憂鬱はつのるばかりです。

 先般、ホームページのリニューアルを2年かけて行うことが決まりました。
 予算は2千500万円にも及びます。
 webサイトの制作会社5社がコンペに参加し、無事リニューアルがスタートすることになりました。
 私はリニューアル委員会の委員を命じられ、様々な仕事が振られることになりました。
 制作会社は発注元の生の意見を聞きたいということで、リニューアル委員全員と顔合わせ。

 その際、それぞれ自己紹介をしたのですが、名前を言うだけではつまらないということで、もし魔法が使えたら何をしたいかを述べることになりました。
 私は下品にも現金が詰まった高級車が欲しいと言いましたが、今すぐ実家に帰りたいという北陸出身の若い女性がいたり、若返りたい、と切ない言葉を述べた57歳の独身男がいたりしました。

 職場では勤め人を演じなければならず、それは大層苦痛なことで、おそらくそれは自分の本当をひた隠しにしなければならないからだと思います。

 その演技の世界で、本音を垣間見せた人。

 ほとんどの人は、毒にも薬にもならない、演技っぽいことを言っていたのに。

 職場で本音をもらすなど、マナー違反も甚だしい。
 職場は演技をする場であって、本音を述べる場ではありません。
 気の合う同僚少数と一杯やりに行ってそういうことを言うのはよろしいかと思いますが、公的な場ではご法度です。

 57歳の先輩が述べた若返りたいという言葉。
 これは彼が生涯独身で老いた両親の面倒を一手に引き受けているという状況がそう言わしめたのかもしれません。
 どこかの時点で選択を誤ったと思っているのかもしれません。

 私も時折、人生の選択は間違いだらけだったと悔やむことがあります。
 しかし若返りたいとは欠片も思いません。
 誤りの多い人生だったとしても、やっとここまで辿り着いたのに、もう一遍やりなおすなんて面倒で仕方ありません。

 どんな生き方をしたって、所詮人間は無い物ねだり。
 後悔こそ人類普遍の振り返りでしょう。

 多分今後も、私はこれまでと同様、その時点では最善と思いながら、後になって悔やむような選択を続けていくのだろうと思います。
 圧倒的多数の人がそうであるように。