わが国ではあまり知られていませんが、今日は恐るべき命令が発出された日です。
1945年の今日、第三帝国総統の名で発出されたその命令は、ネロ指令とも、焦土作戦とも呼ばれます。
すなわち、東部からはソ連軍が、西部からは米英を中心とした部隊がついにドイツ本国に侵入し、敵に国内の基地や道路、工場などのインフラを利用されることを怖れ、敵の手に落ちる前にそれらインフラを破壊しろ、という命令です。
これをわが国に置き換えてみれば、その異様さが分るでしょう。
例えば本土決戦に突入し、米英ソ等の軍隊が破竹の進撃を行ったとして、わが国自らが、戦後のことなど考えず、わが国の建物や通信施設、軍事基地などを次々に破壊するということです。
ヒトラーは第三帝国が敗れればドイツはソ連に支配されると考えていたようで、しかも敗れるということは、アーリア人は、自らが差別していた東方の民族に劣ることが証明されるという意味であり、アーリア人の国家が存在する意味はなく、したがって戦後復興のことなど考える必要がないとまで考えていたようです。
なんという極端な考え方でしょうね。
勝負は時の運。
敗れたなら捲土重来を期して再び国力を蓄えようというのがまともな考えであろうと思います。
そして実際、わが国もドイツも復興を遂げました。
命令を受けた軍需大臣のシュペーアは総統に作戦の撤回を求めたものの叶わず、密かにこの命令をサボタージュして、かなりの程度ドイツのインフラを維持せしめたと聞き及びます。
ヒトラーとシュペーアです。
彼はニュルンベルク裁判で有罪を認め、罪一等を減じて、禁固20年の刑に服し、出獄後は半生記を出版したりしています。
![]() | 第三帝国の神殿にて〈上〉ナチス軍需相の証言 (中公文庫―BIBLIO20世紀) |
Albert Speer,品田 豊治 | |
中央公論新社 |
![]() | 第三帝国の神殿にて〈下〉―ナチス軍需相の証言 (中公文庫BIBLIO20世紀) |
Albert Speer,品田 豊治 | |
中央公論新社 |
幸いにしてシュペーアのような、勇気あるサボタージュを断行する人が軍需大臣に就いていたおかげで、焦土作戦はほとんど有名無実となったわけですが、例えばあのアイヒマンのような、命令に忠実な官僚タイプがその地位にあったなら、徹底的にインフラを破壊し、「上司の命令を実行しただけだ」、と開き直っていたことでしょう。
事実、アイヒマンは南米に逃亡中、モサドに捕えられ、イスラエルで裁判を受けていますが、その様子をBSで放送したことがあり、それを見ると、見事な自己弁護に終始しています。
要するに、組織の歯車に過ぎない自分は官僚として効率的にユダヤ人をアウシュビッツに運ぶ仕事をしただけだ、というわけです。
その弁舌は見事でした。
結局は絞首刑に処せられますが。
後に、特殊な環境下に置かれた人々が、どのように権威に従属していくかを調べる実験方法が考案され、アイヒマン実験と呼ばれるようになります。
![]() | 服従の心理―アイヒマン実験 (1980年) (現代思想選〈7〉) |
岸田 秀,スタンレー・ミルグラム | |
河出書房新社 |
仲の良い演劇部の女子生徒たちにそれぞれ権力者とか協力者とか役割を割り振るアイヒマン実験を描いた「私の中のアイヒマン」は衝撃的な映画でした。
権力者役が暴走したり、囚人役が叛乱を起こしたり。
しかも単なる実験なのに、かなり本気になっちゃってます。
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清水美那,菜葉菜,兵頭祐香,他 | |
エースデュース |
もっとひどいのは、「es」でした。
囚人役と看守役に分かれて行う実験を描いており、こちらは殺し合いにまで発展します。
しかも実話を基にしたというから戦慄すべきことです。
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マリオ・ジョルダーノ | |
ポニーキャニオン |
人はことほど左様に弱いもの。
自分だけは洗脳などされないと頑張ってみるより、もしかしたら自分も洗脳され、従属するかもしれないと気を付けているほうが、いざという時、自分を強くもてるような気がします。
日々組織で働いていて、まこと、世の中のあらゆる組織が、支配と従属の関係に堕する可能性を秘めていると思うのです。
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