物狂い

文学

 季節はもう、春から初夏に向かっているようです。昨日は暑かったですね。

 春といえば、春の珍事やら、変質者が出るやら、浮かれた物狂いの季節でもあります。私は、物狂いは春の終わり、初夏を直前にして現れるように思います。
 いい年をしたアイドルが、全裸で騒いでいたなどというニュースは、まさにそれです。
 
 「徒然草」第十九段に、
 「ひときは心も浮きたつ物は、春のけしきにこそあめれ」とあります。昔から、春になると人は浮き立つのですね。

 与謝蕪村に、
 「公達に 狐化けたり 宵の春」
 という句があります。
 春の宵、貴人を見かけたが、あれは狐が化けているのだろう、といったところでしょうか。
 なんとなく浪漫的で、幻想的な感じがして、物狂いの春にぴったりですね。

 また、春は悠然としたイメージもあります。
 同じ蕪村の句で、
 「春雨の 中を流るる 大河かな」
 というのもあります。
 雨が降っても、そんなことには構わず、悠然と大河が流れている、という感じです。
 私は東京の東端を流れる江戸川のほとりで生まれ育ちました。春の雨を見ると江戸川を思い浮かべます。
 それは物狂いとは対照的な光景です。