人生とは不思議なもので、偶然とも縁ともつかない、不思議な瞬間があるものです。
その最たる例は恋愛沙汰、とくに一目ぼれでしょうね。
ある異性(時には同性)を見た瞬間、これは特別な瞬間だと感じ、それまでの生きてきた歩みが一瞬にして再構成され、その異性との未来を明瞭に思い浮かべてしまうわけです。
もちろん、これが片恋であればストーカーに化してしまう可能性がありますが、奇跡的に両思いになれば、その偶然は決して偶然などではなく、縁という必然であると確信するに至るでしょう。
私は残念なことに一目ぼれという経験はありません。
しかしまずは友人になって、飲み仲間になって、少しずつその異性に惹かれていく過程のある一瞬に、一目ぼれと同じような、過去の再構成と未来への展望が同時に開ける特別な瞬間を持ったことは数少ないですが、経験しています。
過去は良いことも悪いことも含めてこの人と出会うためにあったのだという強い確信と、現在のよしなしごとを吹き飛ばしてしまう強い力で、二人が歩むであろう明るい未来への展望を信じてしまいます。
恋は病とかいう、傍から見たらじつに小っ恥ずかしい瞬間でもあります。
それはひとつ恋愛に限ったことではなく、天職と出会ったと感じたとき、素晴らしい芸術作品に触れ、強いインスピレーションを与えられた時などにも訪れます。
コリン・ウィルソンはこれを至高体験と呼び、ハイデガーは本来的な時間の獲得と呼びました。
長い間西洋哲学は、こういった神秘的な体験の存在を単なる思い込みや勘違いとして歯牙にもかけませんでしたが、20世紀初頭からは、こういった体験も人間の本質を探るうえで重要だとして、細々と研究されるようになりました。
昨夜から、亡父の蔵書から「偶然性と運命」という新書を読んでいます。
まだ一章を読んだだけですが、非常に強い感銘を受けました。
難解なハイデガーの「存在と時間」をかみ砕いて説明し、その上で恋愛沙汰という卑近な例をひいて、読者の注意を惹きつけます。
仕事なんかしている場合ではありませんねぇ。
早く読みたいものです。
こんな気分で読書するのは久しぶりです。
亡父の多くの蔵書から、宝物を見つけた気分です。

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