狂乱の森

映画

 シネコンで「キャリー」を観た後、近所の中華屋でタンメンを食しました。
 車で自宅へ戻り、車を車庫に入れて、その足で行きつけの床屋に散髪に行きました。
 昼寝を兼ねて。
 約1時間、爆睡し、さっぱりした頭で性懲りも無くレンタル店に向かい、珍しくイスラエル製のホラーを借りました。

 はるか昔、「グローイング・アップ」シリーズという思春期の少年たちのドタバタ劇を描いた青春映画がありましたが、イスラエルの映画を鑑賞するのはそれ以来です。

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 観たのは、「ザ・マッドネス 狂乱の森」です。



 これはなかなか不思議な作りでした。

 テニスの試合に向かう途中の若い男女4人が道を間違えて森の中の狭い道に入り込みます。
 そこへ傷を負った若い男が飛び出してきてはねてしまいますが、幸い大事には到りません。
 が、男は奇妙なことを頼むのです。

 すなわち、妹が森の奥の穴に落ちてしまったので、助けて欲しい、と言うわけ。

 奇妙に思いながら、男2人ははねた男とともに森の奥へと徒歩で向かいます。
 
 車に残った女2人は警察を呼び、2人の警官がパトカーに乗ってやってきますが、彼女らが乗っている車のボンネットに血痕があることを不審に思い、車内を調べ、女たちを身体検査するのですが、身体検査を担当した警官は、どうも変態野郎らしく、明らかな痴漢行為に及びます。

 怒った女は警官の銃を奪い、発砲。
 弾丸は右手に当たり、変態警官は指2本を失います。
 銃を持ったまま、女2人も森へと逃走。

 怪我を負った警官は復讐に燃え、相棒を手錠で車のハンドルにつないだ上、キーを奪い、森へと入っていきます。

 男達が向かった穴から妹は消えており、兄は錯乱状態に陥って1人捜索を始めます。

 携帯電話で女達も森に入ったことを知った2人の男は、さっきまで冗談を飛ばしあう仲良しだったのに、車に戻るか女達を捜すかで口論になり、挙句の果てに殴り合いを始め、ついには石で頭を殴り、片方の男を殺害してしまいます。

 その時森にはさらに2人の男がいます。

 1人は森の管理をする仕事のため、もう1人はどうやら妹を誘拐した犯人のようです。

 若い男2人はどうも恋敵の関係にあり、女2人は一方が同性愛者で、もう一方に片恋のご様子。

 警官は車に閉じ込められた方が奥様と別居中で、どうにか関係性を修復したいと願って、勤務中にも関わらず、携帯電話で何度も奥様に電話しますが、一向に出てくれず、苛立っています。

 指2本を失った警官は極端な女好きのうえ、父親と折り合いが悪いことを悩んでいるようです。

 怪我を負いながら妹を必死で探す兄は、2人で家出して2人きりの生活を夢見ているようで、妹と近親相姦の関係にあるように描かれています。

 森の管理人は奥様と幸せな生活を送っているようで、まともに思われますが、妹が倒れているのを発見して気絶している妹を抱きかかえ、管理人のためのトレーラーハウスに向かって歩いているところを兄に見られ、兄は隙を見て管理人を鈍器で殴り、殺してしまいます。

 それぞれに一見何の脈絡もないように思われる人々のバックボーンを描きながら、森でごく些細な勘違いや口喧嘩が元で、互いに殺しあう姿がホラーらしからぬ重厚さをもって描かれます。

 メリー・ゴーラウンド方式と呼ばれる手法によく似ています。

 特に関係の無い人々の人生を同時並行的に描き、最終的に小さな関係性を持たせる、複合的な物語形式です。

 大作「愛と哀しみのボレロ」や、三島由紀夫「鏡子の家」などに見られる手法で、群像劇に向いており、あまりホラーで取られる手法ではありません。
 しかし私は、物語を破綻させる危険をはらむと同時に、物語に深味を与えることができるこの手法が気に入っています。

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鏡子の家 (新潮文庫)
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 最近では、吉田修一原作の青春群像劇にしてサスペンスでもある「パレード」が、小説も映画も出色のできでした。

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パレード (幻冬舎文庫)
吉田 修一
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 ラスト、唯一生き残ったテニス選手の男が、同じ道に迷い込んだ家族連れの車に同乗させてもらい、これで生還できるのかと思いきや、なぜか家族連れの車のエンジンがどうしてもかからなくなります。

 新たな悲劇の始りを予感させます。

 説明めいた描写は一切ありませんが、要するにその森には瘴気が濃厚に漂っており、人を狂わせるのだということを予感させて終わります。

 幽霊や妖怪と違い、人間は物理的な力を行使できるわけで、最も恐怖すべき存在は人間だということを強く印象付けられました。

 ホラーというより、文芸作品の面影が漂う佳品で、興味深く観ることが出来ました。

 わずか1日ですが、良い休暇だったと思います。

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