色川武大渾身の一作にして遺作となった「狂人日記」。
私は精神病を発症する10年以上前にこの読売文学賞受賞作品を読み、強い衝撃を受けました。
醒めては幻覚や幻聴に襲われ、寝ては悪夢に襲われる、そんな絶望のなかでも、主人公は他者とのつながりを求めます。
家族であったり、同じ入院患者であったり。
時には、精神病院のなかにあっても、人間的な、人とのつながりを感じられる瞬間をもつこともあります。
しかし彼の絶望は深く、自ら死を選ぶことになります。
他者と一体となりたい、という欲求は、彼にとってほとんど唯一無二の欲望のようです。
元気だった頃の私は、そんなものなかな、と思うだけでしたが、精神病を発症して、「狂人日記」に対する読み方が大きく変わりました。
主人公の魂の叫びは、すべて私自身の叫びであって、そういう意味で、私は虚構の狂人と一体となったのかもしれません。
それにつけても精神病というもの、いかにも厄介ですが、自分が精神障害者になってみると、この現代社会を生きていて、精神がどうにかならないほうが不思議に思うようになりました。
結局は自分の立場でしか、物を考えられないのでしょうねぇ。
この小説は精神病院に入院する精神障害者を主人公にしているせいか、その文学上の高い価値に比べ、あまり読まれていないような気がします。
正気といいい、狂気と言いますが、その境界は極めて曖昧で、ほとんど紙一重です。
自分には狂気のかけらもない、という人にほど、「狂人日記」を読んでもらいたいものです。
![]() | 狂人日記 (講談社文芸文庫) |
佐伯 一麦 | |
講談社 |
にほんブログ村
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!