文学

 坂口にせよ、太宰(治)にせよ、田中(英光)にせよ、揃いも揃った愚弟ばかりだね。彼等の兄貴を見て御覧、みんな堂々たる賢兄ばかりだよ。

 
上記は、亀井勝一郎が坂口安吾の死の直後に発した言葉です。

 愚かな弟だから文学に魅かれるのか、文学に興味を持つようなやつは大抵愚かな弟なのかわかりませんが、そういう傾向はあるのかもしれませんね。
 私にも賢い兄がいます。

 坂口安吾は自伝的小説「石の思い」で、両親を批判して、時にその筆は激烈ですが、兄弟に対してはとくにコメントしていません。
 存在そのものが持つ孤独性を評して、石が考える、と表現しています。

 私は幼少の頃から、石に多大な関心を寄せてきました。
 幼い私は、石は生きていると考えていました。動物が起きている生、植物が眠っている生、鉱物は脳死のような生であろうと、予感していました。
 齢41を迎えた今も、この予感は変わりません。
 そして孤独の絶対性と言う意味で、鉱物に敵うものはありません。
 石は幼い私の退行欲求を刺激し、今も刺激するのです。
 石は私にとってヒーローのような存在です。
 石はただそこに在るだけで、孤独の苦痛と、退行の快楽を体現してくれるのです。

 私はドラッグをやった経験はありません。
 しかしもしドラッグで、石がもつような己に深く沈滞する精神状態を味わえるなら、やってみたいと思うのです。
 
 「リトル・ミス・サンシャイン」というロード・ムービーがあります。
 女の子がミス・コンテストに出場するために旅する家族を描いたコメディーです。
 ヘロイン中毒のおじいちゃんが、ドラッグは年寄りがやるもんだ、若いうちは体を大切にしろ、というセリフを吐くシーンがあります。
 このおじいちゃんは孫娘の晴れ舞台であるミス・コンテストを見ることなく死んでしまいます。

 いずれ老人になる私を誘惑する危険なセリフです。

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