私は幼い頃から、動物よりも植物よりも無機質な鉱物に魅かれてきました。
そこには絶対の清潔さと、絶対の平安、死にも似た静かな暮らしがあるからです。
それに対して動物も植物も、捕食と光合成の違いはあるにせよ、何かを吸収して、老廃物を吐き出すという行為が必要であり、それはグロテスクな行為でもあり、不潔です。
ドイツ・ロマン派の作家にE.T.Aホフマンと言う人がいて、高校生の頃私はこの人の作品に熱狂しました。
代表作に、「砂男」という不気味な作品があります。
一方、わが国では、安部公房が「砂の女」という有名な作品を残しています。
こちらは実験的な小説で、問題意識がわりとはっきりした小説です。
「砂男」は眠らないでいると砂男が来て目玉をえぐる、という童話を信じた主人公が、大人になってもその恐怖から逃れられず、ついには破滅してしまう話で、目玉をえぐるというモチーフが繰り返し現れます。
私も幼い頃、幽霊や妖怪の存在を固く信じていたので、この小説の恐怖と狂気は、なつかしい世界です。
「砂の女」はどういうわけか砂の下の家に閉じ込められた男が、毎日毎日砂のかき出しをしながらその家の女と暮らす話で、いわゆる不条理劇の体裁をとっています。
分かりにくい作品が多い安部公房にあって、この作品はストーリー展開も面白く、娯楽作と読むこともできます。
どちらの作品にも、砂という物質が持つ根源的な冷たさが象徴されているように思います。
![]() | 砂男 無気味なもの―種村季弘コレクション (河出文庫) |
E.T.A. Hoffmann,S. Freud,種村 季弘 | |
河出書房新社 |
![]() | 砂の女 (新潮文庫) |
安部 公房 | |
新潮社 |
![]() | 砂の女 特別版 [DVD] |
岡田英次,岸田今日子 | |
パイオニアLDC |