祝 ワーグナー生誕200年

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 昨日はリヒャルト・ワーグナーの生誕200年記念日だったそうで、ドイツ国民はこぞってこれをお祝いしたようです。

    ワーグナーです。


 ワーグナーの交響曲は、激しい高揚をたらす麻薬のような所があり、ナチス・ドイツは第二次大戦中、ワーグナーの交響曲を盛んに宣伝に使い、また、ワーグナー自身が反ユダヤ主義者だったと伝えられることから、生誕200年のお祭りにも関わらず、ワーグナーの思想的偏向を責める向きもあるようです。

 無粋ですねぇ。

 芸術家なんていうものは、およそおかしな思想をもつもので、それをもって芸術作品の価値が下がるものではありますまい。

 バヴァリアの狂王と呼ばれたルートヴィッヒワーグナーの音楽を愛好し、彼と親交が深かったそうです。
 ルートヴィッヒはいわば似非芸術家とも言うべき通俗的で嘘くさい、派手な芸術を好みました。

 真冬の深夜、体育館のような広い建物を夏のように暖房をかけ、偽の月を浮かべ、人造の真っ青な池を作って半裸の美少年を侍らせて悦に入る姿がヴィスコンティの名作「ルートヴィッヒ」で描かれ、学生の頃それを見て、薄気味悪さとともに、王家の財産を次々と似非芸術のために浪費していく狂的な姿に、シンパシーを感じたことを覚えています。

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狂王ルートヴィヒ―夢の王国の黄昏 (中公文庫)
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中央公論社

 また、コッポラ「地獄の黙示録」では、米軍がベトナム戦争で、ヘリコプターからナパーム弾を落とす際、ワーグナー「ワルキューレ」を大音量で流し、地上で逃げ惑うベトナム人にゆがんだ笑顔を浮かべながら機銃掃射する米兵が不気味で、公開当時小学生だった私は震え上がり、その後しばらく、「ワルキューレ」が耳を離れませんでした。

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 じつのところワーグナーの音楽は私には刺激が強すぎるようで、ワーグナーを聞くと、今度は逆に極端に音が少ないエリック・サティの静かなピアノ曲が聞きたくなります。

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 テレビで見ると、ドイツはこのおめでたい日を複雑な思いで迎えているようです。
 祖国の偉大な音楽家でありながら、ドイツの恥部を刺激するのでしょうねぇ。

 わが国では、ナチス・ドイツのような壮大な国家戦略も謀議もなく、場当たり的に第二次大戦に突入し、ユダヤ人抹殺を目論むような巨大な計画もなく、連合国も犯したであろう程度の、普通の戦争犯罪しかなかったため、今もドイツ人ほど自国を責めたりしません。

 当たり前ですが。

 そのため、ニュールンベルク裁判と同じような方法で東京裁判を行おうとした連合国は、ドイツのように突っ込みどころ満載の国とは違い、わが国を責める材料を集めるのに四苦八苦したようです。
 やってもいない犯罪をでっちあげるんですから、それは大変な作業でしょう。

 ワーグナーの生誕200年のお祝いくらい、政治的な思惑は抜きにして、素直に喜んでほしいものです。


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