臨死体験をすると多かれ少なかれ死生観が変わると言います。
私の知り合いに、交通事故にあい、二か月も生死の境を彷徨よった者がいます。
幽体離脱を経験し、強烈な光の中お花畑を通り、三途の川にいたってご先祖様からまだ川を渡る時ではないと諭され、気付いたら病床で意識を取り戻したというのです。
典型的な臨死体験ですね。
あまり語る人はいませんが、バッド臨死体験というのもあるようです。
地獄に落とされそうになって戻ってくる悪夢のような経験で、これも死生観を変容させ、善人になるべく努力を始めるとか。
誰でも地獄には落ちたくないですから。
臨死体験をして生還した私の知り合い、神秘主義の哲学者になって、大学教授におさまってしまいました。
何が幸いするか分かりません。
およそアカデミズムの世界とはかけ離れた、アカシック・レコード(宇宙の全歴史を記した記憶媒体)は存在するのか、存在するとして、アクセスする方法はあるのか、とか、宇宙の成り立ちをルドルフ・シュタイナーの神秘主義思想に依って解明しようとか、宗教を問わず、神や仏の存在を証明しようとか、何が専門か分からない研究をしています。
つまらぬ事務仕事に明け暮れる私から見たら羨ましい職業です。
私も高校から大学にかけて、ルドルフ・シュタイナーとかマダム・ブラバッキー等の神秘思想にドハマリしたことがあります。
神秘思想こそ、最も手っ取り早く、この世の真実に近づくことができる道だと考えたのです。
しかしそれは天賦の才能を持つ一部の超人にしか許されない方法でした。
当時は月の成り立ちは地球と同様に物質が重力によってくっついてできたとするのが当たり前でしたが、1975年にジャイアント・インパクト説が唱えられ、月に巨大な隕石が衝突し、地球の一部が地球から離れて月が出来た、とします。
これにより、月の物質と地球の物質が極めて類似していることが説明でき、まだ仮説の段階ですが、有力だとされています。
ルドルフ・シュタイナーはこれを幻視し、月は地球から飛び出してできた、と言い出し、当時の天文学者から総スカンを食らったと言います。
これはアカシック・レコードにアクセスした結果の幻視かもしれません。
当然、私にはそのような能力は無いし、そもそも神秘主義思想そのものが胡散臭いとされています。
私はおのれの平凡さを恨みながら神秘主義から撤退したのです。
それでも私は、この世ならぬモノへの予感を感じ続けています。
その予感すら失った時、私はただの飯喰らいになるのでしょう。