60年代後半から80年代にかけて、米国西海岸発祥のニューエイジ運動が世界を席巻しましたね。
正確に定義付けるのは極めて困難な、曖昧なイメージですが、強いて言えば、霊的・神秘的なものへの親和性を特徴としながら科学的でもあり、禅や道教、チベット仏教などから影響を受け、過剰な消費社会・物質文明に警鐘を鳴らす運動であったように思います。
人間が各々の霊性を高めて、一歩先の平和な世界を築こうという、love&peaceみたいなところもありました。
日本においては幸福の科学がその嚆矢でしょう。
名前からしてニューエイジ運動の重要なキーワードが入っています。
ニューエージ運動は楽天的な快楽主義の側面を持ち、これが幸福と、そして科学はそのものずばり、でしょう。
しかしその後、ニューエイジを掲げて生き残った者は、幸福の科学にしろシャーリー・マクレーンにしろ、金儲けの権化のような人たち。
ちょうど、全共闘の闘士が、社会に出るやそれまでの思想をかなぐり捨てて企業戦士になっていったのと似ています。
私は全共闘の頃は2,3歳だったので、全く影響を受けていません。
しかしニューエイジ運動は長く続いたので、かなり影響を受けました。
その中で、私が非常に強い関心を寄せたのが、ニューエイジ運動がおこるはるか以前、19世紀末から20世紀初頭に活躍した神秘思想家にして教育学者のルドルフ・シュタイナーです。
一般的には教育学者としての側面が有名かもしれません。
高校生の頃、「神秘学概論」を読んで、衝撃を受けました。
そこには霊的覚醒によって得られる様々な知識や知恵が、おしげもなく披歴されていたのです。
シュタイナーの四大主著の一冊であり、その思想の根幹が綴られています。肉体、エーテル体、アストラル体、自我という人間存在のヒエラルキアを解明し、宇宙論、人間論の中で、めくるめくような宇宙史の壮大な展望の下にマクロコスモス(宇宙)とミクロコスモス(人間)との関わりをあとづけ、進化の法則と意識の発達史、古代秘儀の本質、輪廻転生論、悪魔論、霊的認識の方法などを記し、過去と現在と未来についての常識をくつがえした前代未聞の神秘学大系が展開されているのです。
しかし悲しいかな、私には霊的覚醒など、到底不可能なことがわかっていました。
要するにシュタイナーは天才。
私がいくらバットを振り回そうとイチローになれないのと同様、どんな修行をしてもシュタイナーにはなれないのです。
そして私は、仏典に親しむようになりました。
シュタイナーの驚異的な著作に比べると、仏教は分かりやすい教えでした。
いわば、道徳のようなもの。
神秘学によって彼岸へと一足飛びに駆け抜けようとしていた私は、仏教によって落ち着きを取り戻しました。
今思えば、神秘学への熱中は、早すぎた躁転だったのかもしれません。
もちろん、当時は自分が双極性障害の気があるなんて、かけらも思いませんでした。
しかしあれは、異常でしたねぇ。
そういうことが、対象を変えて何度も起きました。
小説の執筆だったり、句作だったり、明け方というよりは深夜の散歩だったり。
滅多やたらに女性に声をかけていた時期もありましたねぇ。
芸術的な精神の高揚とでもいったようなものが、確かにかつてありました。
躁を抑える薬を飲むようになり、それがなくなって、平穏で大変結構なのですが、なんとなく、もの足りなかったりもするのです。
![]() | 神秘学概論 (ちくま学芸文庫) |
Rudolf Steiner,高橋 巖 | |
筑摩書房 |
![]() | いかにして超感覚的世界の認識を獲得するか (ちくま学芸文庫) |
Rudolf Steiner,高橋 巌 | |
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