秋の牢獄ほか

文学

  昨夜は恒川光太郎の短編集を読みました。
 3編の小説が所収され、210頁ほど。
 1時間半ほどで、一気に読みました。

 掲載されているのは、「秋の牢獄」・「神家没落」・「幻は夜に成長する」です。

秋の牢獄 (角川ホラー文庫)
恒川 光太郎
角川書店(角川グループパブリッシング)

 前に読んだ「夜市」「風の古道」の最強タッグが所収された「夜市」の鮮烈さに比べると、やや見劣りしますが、それでも味わい深い佳品揃いでした。

夜市 (角川ホラー文庫)
恒川 光太郎
角川グループパブリッシング

 「秋の牢獄」をはじめとする3編は、いずれも囚われる、ということを題材にしています。

 「秋の牢獄」は、いわゆるタイムループ物で、SFに分類されるかと思います。

 11月7日(水)を何度も繰り返す女子大生の物語。
 面白いのは、リプレイヤーと呼ばれる、11月7日(水)を繰り返す人々がいて、彼らは不思議な縁で知り合い、しばし、交友を深めます。
 しかし、やがてはそれぞれが一人になって、北風伯爵と名付けた白い物体に囚われ、消えていくのです。
 消える先が翌日の11月8日(木)で、タイムループから解放されるのか、存在が消滅してしまうのか、誰にも分かりません。
 一人、また一人と、同じタイムループを繰り返してきた知り合いが北風伯爵に囚われて消えていきます。

 女子大生が北風伯爵に囚われ、「悪い1日じゃなかった」と、何度も繰り返し、泣いたり笑ったりした11月7日を振り返る一言は、印象に残ります。

 この作品は、時間に囚われながらも、いずれは北風伯爵に囚われ、未知の世界に運ばれていく、という予感との、二重の囚われが描かれ、切ない読後感を覚えます。

 「神家没落」は、図らずも古民家の守り人になってしまった青年の物語。
 古民家には、必ず1名の守り人が必要で、その守り人は、次の守り人が現れるまで、古民家を出られないのです。
 それはもう、物理的に。
 しかも古民家は一年かけて日本中を移動しています。
 どこに現れるかはきちんと定まっていて、土地の人々との一年に一度の逢瀬を楽しむことが出来ます。
 こちらはややサスペンス調。

 家に囚われる青年を描いて、悲劇的な境遇であるにも関わらず、家に愛着を感じるようになる様が、どこか哀れを誘います。

 「幻は夜に成長する」は、人に幻を見せる能力を持った少女の物語です。
 彼女が、やはりそういう能力を持った祖母に育てられ、能力を開花させていく様が描かれ、後にその能力ゆえに無理やり新興宗教の教祖に祭り上げられ、その宗教に囚われる姿が描かれます。

 宗教団体は、麻薬や洗脳で彼女を教祖にし、しかも監禁状態に置きます。

 こちらはラストにいたり、能力を最大化させ、幻を見せることで人を殺すことすら出来るようになり、その力を使って解放される、という締めくくりです。

 3編はそれぞれ独立した物語ですが、続けて読むと、連作短編のような、不思議な読後感を覚えます。

 奇妙な物語を平易な文章で紡ぎだし、そこに何とも言えない哀愁が漂い、どこかノスタルジックな味を醸し出す、稀有な作家だと思います。
 まだ2冊しか読んでいませんが、好みだけで言えば、私にとって現役最高の小説家であるように思います。
 出版されている作品は全て読んでみたいと思います。

 そんなことを思わせた現役の作家は、22歳の時に「電話男」を読んでファンにった小林恭二以来です。
 残念なのは、小林恭二という人、最近ほとんど小説を出版していないことです。

電話男 (ハルキ文庫)
小林 恭二
角川春樹事務所


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