秘密

その他

  午後、車を飛ばして実家に向かいました。
 車で約40分。

 母に、奇妙なお願いをしてきました。

 私たちの仲人、もう60歳になるのですが、5年前に離婚したとかで、仲人子たる私に、実母に、良い人がいれば、紹介してほしいと頼んでもらいたいというのです。

 母は江戸川区の寺で50年ちかくも大黒をやっていた関係から、一般の主婦よりも顔が広いのは確かです。

 しかし還暦を迎えた男にふさわしい女性となると、さすがに雲をつかむような話です。
 一応、履歴書や写真を母にあずけてきましたが、難しいでしょうねぇ。

 前の奥様とは30年も連れ添った仲。
 それが5年前、離婚届一枚を置いて失踪したそうです。
 今もどこで何をしているのか分からないとやら。

 二人の倅の結婚式にも現れることはなかったそうです。
 そうなると、男ができたかと、下衆の勘繰りをしたくもなります。

 30年も共に過ごした夫婦といえど、分かれる時は呆気ないものです。

 そう思うと、籍を入れて15年の私と同居人の生活など、風前の灯と言うべきでしょう。

 しかし私は、妻に捨てられた仲人が、少し羨ましくも感じられます。
 
 堂々と、独り暮らしを楽しめるわけですから。

 わがままで自分勝手な私と、15年も暮らしてくれた同居人には感謝しています。
 
 しかし私の本当の欲望が孤独な生活だと知れば、同居人はショックを受けるでしょう。
 あるいは先刻ご承知か。

 だから私は私のありのままの欲求を言い出せずにいます。
 別れてくれとも言えず、なんとなく、同居人との同居を続けています。

 でも多分、私には他人に合わせておのれの欲望を殺し暮らしていくのは無理なのです。

 なんとなれば、私はあまりにも傲慢で、大王であり、魔王でもあるのですから。

 今思うのは、いつ同居人との関係性を絶てばよいのかということ。
 同居人が私の気持ちを理解してくれなければ、泥仕合を演じることになるでしょう。

 それは避けたいところです。

 かと言って、私が同居人への恋情を失ったわけではありません。
 今も、私は同居人への抑えがたい恋情を保っています。

 それでも、恋情以上に、私は孤独でありたいという欲求を捨てきれずにいます。

 かつて西行法師は、武士の身分を捨てて出家する際、父を恋うてしがみつく幼い娘を足蹴にしたと聞き及びます。

 どういうわけか男というもの、家族との幸せな生活を捨ててでも、おのれが求める道を突き進みたいという欲求を捨てられないかのごとくです。

 私は心の奥深くに、根源的な欲求を隠し持ちながら、しばし、今の同居人との生活を続けなければならないと感じています。

 しかし時が満ちれば、私は私の欲求を求めるわがままを抑えることができないのではないかと、今から危惧しているのです。

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