立冬

文学

 今日は立冬

 冬というほどではないにしても、近頃めっきり冷えてきました。
 家ではセーターの上から綿入れ半纏を着て、職場ではフリースを羽織って膝かけをかけてしのいでいます。

 体重が激減してから、寒さが一際こたえます。

 わが国では、夏と冬の和歌が少なく、春と秋のそれが多いとされています。

 わが国の美意識では、過酷な夏や冬は詠みにくかったのかもしれませんねぇ。

 昔は冷房は無いし、暖房も心細いものだったでしょうから、私たちが想像する以上に、夏も冬もしんどい季節だったのでしょう。

 そんな中、冬の初めの和歌をいくつか。

 心あてに 折らばや折らむ 初霜の おきまどはせる 白菊の花

 百人一首にも採られた凡河内躬恒の和歌です。

原色小倉百人一首―朗詠CDつき (シグマベスト)
鈴木 日出男,依田 泰,山口 慎一
文英堂

 霜で白菊の花だかなんだか分からなくなってしまったその白菊を折ってみようというわけで、素朴な味わいの、しかしきれいな和歌ですねぇ。
 冬には冬の楽しみがあるとでも言いたげです。

 秋はいぬ 風に木の葉は散はてて 山さびしかる 冬は来にけり 

 木の葉散 秋も暮にし 片岡の さびしき森に 冬は来にけり

 両方とも天才歌人、源実朝の作です。
 なんとも寂しげな、寒々しい興趣を感じさせます。
 実際の冬はこんな感じですよねぇ。

金槐和歌集 新潮日本古典集成 第44回
源 実朝,樋口 芳麻呂
新潮社

  この人、数えで28歳という若さで凶刃に倒れてしまいます。
 源将軍は父親の頼朝が亡くなり、兄の頼家が追放の後殺害、実朝も暗殺と、わずか三代で絶え、北条執権家が実権を握り、将軍は皇族から迎えたりするお飾りに堕してしまいました。

 因果は巡ると申します。

 平家を滅ぼした因果でしょうか。
 平家が滅ばされたのは、幼い頼朝を伊豆遠流という寛大な処置に済ませたことにあり、それもまた因果でしょう。

 世は真、因果応報の世界ですねぇ。

 正岡子規は源実朝を激賞し、もう10年長く生きられたらどんなに素晴らしい和歌を残しただろうと、慨嘆しています。

 将軍家などに生まれず、下級武士にでも生まれていたら、西行法師のように放浪の歌人になっていたかもしれませんね。

 今さら言っても詮無いことですが。

 せめて私たちは故人を和歌によって偲び、冬らしい風情を楽しみたいものだと思います。

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