ナチの第三帝国が滅んだあと、奇妙な噂が世界をめぐりましたね。
第四帝国です。
ヒトラーの遺体は見つかっておらず、その生死もわかりません。
その上、戸籍上存在するはずの25万人のドイツ人が、戦後、忽然と消えました。
不思議な出来事です。
この不思議な出来事をもって、さらに奇怪な噂話が生まれました。
総統は総統官邸の地下壕を逃げだして、ナチに親和的な南米の国に逃れ、さらに南極にいたり、南極に第四帝国を建設中だというのです。
第四帝国は独自に科学技術を進歩させ、UFOを飛ばして 世界を監視し、総統もしくは総統の後継者が世界に号令をかけるのを待っているのだとか。
ほら話としては、とても面白い話です。
第三帝国で千年王国を夢見たナチの信奉者からしたら、飛びつきたくなるような話でしょう。
しかし、南極に25万人を超える人口を抱えた都市などありません。
ヒトラーの生死が不明とはいいますが、常識的に考えて、生きているはずもありません。
それでも一度はおのれが信じたナチズムが今も営々と生き続けていると考えることは、ナチの老戦士にとって、心躍ることなのでしょう。
人間は夢をみたいもの。
それがどんなにはかないものであっても、夢をみている瞬間は幸福です。
ナチの残党を愚か者といって嗤うことは簡単ですが、私のよくするところではありません。
私には、荒唐無稽な夢をみたがる人の気持ちがよくわかるのです。
![]() | 20世紀最後の真実 いまも戦いつづけるナチスの残党 (集英社文庫) |
落合 信彦 | |
集英社 |