絶対平和

社会・政治

 尖閣諸島の問題が曖昧なうちに、今度はロシア大統領の国後島訪問ですか。
 いやになりますね。
 今回は駐露日本大使を素早く帰国させましたね。
 召還ではなく、説明を聞くための一時帰国命令だと言っていましたが、ロシアに帰る日時が未定とあっては、事実上の召還とみなしてかまわないでしょう。
 一般に、大使召還は戦争の一歩手前と言われますから、柳腰外交を掲げる民主党政権にしては勇ましいですね。
 これで前原外務大臣も男を上げたというものでしょう。

 戦後数年間、石原莞爾や保田與重郎が絶対平和ということを説きました。
 二人ともどちらかというと勇ましいイメージで、不思議な感じがします。
 石原莞爾は憲法9条を人質に、やがて訪れる米国からの再軍備圧力にもめげず、寸鉄も帯びずに世界平和を達成せよ、と言ったとか。
 保田與重郎は平和は目的ではなく、生活している状態が平和なのであるから、自然の恵みに従って田畑を耕し、自然と一体となって暮らせばそれが平和で、平和に国家も主権も関係ないので、日本の古の生活と無抵抗の精神を貫くことが絶対平和だ、と言っています。

 倉橋由美子が反核平和教、司馬遼太郎が念仏平和主義と揶揄した、瀕死の状態の非武装中立などとはちょっと違うようです。

 憲法9条を人質に、とか、日本の古の生活と無抵抗の精神とか、要するにこれは近代国家に対するアンチ・テーゼですね。
 国家そのものの否定です。
 絶対平和を言うなら近代国家を超克しなければ実現できない、という一種の脅しともとれます。

 そもそも世界が国家を超克するなどということは、遠い将来はともかく事実上は不可能で、その不可能を前提に絶対平和を唱えるということは、つまり不可能性の証明でもあります。
 したたかな論理です。
 これに乗せられて、田舎に引っ込んで農業を始めたやつなんかもいたんでしょうか。

 保田與重郎の絶対平和論は政治論ではなく、文学論なんでしょうね。
 浪漫派の文学者が、生活ということに目覚め、生活とは何ぞやと考えて、古の日本に回帰することだと気付き、古の生活に入ったならば国も主権もなく、おのれが欲する美的生活を送り、武力抵抗は一切しない、ということでしょう。
 日本古来の隠遁した文学者のイメージでしょうか。
 

絶対平和論/明治維新とアジアの革命 (保田与重郎文庫)
保田 与重郎
新学社

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