蕪村句集講義

文学

 日曜日、「坂の上の雲」が放映されていました。
 香川照之演じる正岡子規の最後は、凄絶なものでした。
 苦痛に悲鳴を上げながらも句作の筆をとる執念、怖ろしいばかりです。

 足あり、仁王の足の如し。
 足あり、他人の足の如し。
 足あり、大盤石の如し。
 僅かに指頭をもってこの脚頭に触るれば、大地震動、草木号叫、女媧氏いまだこの足を断じ去って、五色の石を作らず。


 「病床六尺」からの引用です。

 女媧氏云々というのは、昔天地を支える柱が折れたとき、亀の足を切って柱を支えたという話から、その女媧氏でさえ自分の足は切れまい、という慨嘆でしょう。
 大げさな表現にも見えますが、結核の毒が全身にまわったその痛みというのは、想像を絶するものであったでしょう。
 正岡子規の母親は、臨終後、「もう一度痛いと言うてみい」と言って子規の足を叩いたそうです。
 痛ましいかぎりです。

 最近、子規が高浜虚子、河東碧梧桐と「蕪村句集」の輪読会を開いた様子を記した「蕪村句集講義」が出版されました。
 それぞれの俳人が蕪村の句を取り上げて、これは昼だ、いや夜だ、後家だ、いやいかず後家だ、そっちのほうが趣がある、と談論風発。
 誠に楽しげに蕪村の句を肴に遊んでいるのです。
 
 三人そろって誉めていた句で、私も気に入ったものを数句。
 冬の句ばかりなのは今が冬だからです。

 
居眠りて 我にかくれん 冬ごもり

 今で言う寝逃げ、と言うと俗に過ぎるでしょうか。
 浮世を忘れて清浄な我に逃げ込もうというのでしょうか。
 どこか厭世的で耽美的な芸術家の諧謔が感じられますね。

 
冬ごもり 壁をこころの 山による

 冬ごもりのある時、壁によりかかって、壁を山としているのでしょう。
 山といえば、昔から世捨て人や仙人が暮らす場所。
 山中に桃源郷を夢見る少年の如き魂を感じます。

 
冬ごもり 仏にうとき こころ哉

 寒い冬、お寺に詣でるのも億劫だし、こうしてぬくぬくしていると、仏の教えなどどうでもよくなる、という怠け心の句と見ました。
 蕪村のこういう自分に甘い感じが浪漫的で良いのですよねぇ。

 選んでみたら、全部冬ごもりという言葉が入っていました。
 狙って選んだわけではないのですが。
 私はよほど、冬に暖かい部屋に籠るイメージが好きとみえます。

蕪村句集講義1 (東洋文庫)
佐藤 勝明(校注)
平凡社

 

蕪村俳句集 (岩波文庫)
尾形 仂
岩波書店

 

病牀六尺 (岩波文庫)
正岡 子規
岩波書店

 

病床六尺 (まんがで読破)
正岡 子規
イーストプレス

 

NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲 第1部 DVD BOX
本木雅弘,阿部 寛,香川照之,菅野美穂
ポニーキャニオン

 

坂の上の雲 全8巻セット (新装版) (文春文庫)
文藝春秋
文藝春秋

 ↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い