2005年公開の映画「オペレッタ狸御殿」、当時劇場で鑑賞して、大いに楽しみましたが、その中で薬師丸裕子が何度も「ねーんぴ、かんのんりーきー(念彼観音力)」と観音経の一部を唱えるのが耳に焼き付きました。
今でも時折、ふとした瞬間に、「ねーんぴ、かんのんりーきー」という間の抜けた声が、ふいに聞こえてくるのです。
要するに観音を心に念じよう、と叫んでいるわけです。
で、念じるとどうなるか。
あらゆる苦しみや苦難が去ってしまうんだそうです。
それほど観音様の功徳は素晴らしい、というのが、観音経(妙法蓮華経観世音菩薩普門品)の教えで、これ、般若心経と並んで日本では最も人気があるお経なんですよねぇ。
私がまず感じたのは、般若心経は短いながら精緻に空の教えなど仏教の深遠な哲理を解説した、理論のお経であること、それに対して観音経は、観音様を念じればその功徳で苦しみから逃れられる、と説いた情緒的な観想のお経である、ということです。
一方で理屈を、もう一方でひたすらな信仰を求めるお経が二つながら人気があるというのは、じつに面白い現象です。
そして現代人の多くは、般若心経に心惹かれるでしょう。
なぜなら般若心経には奇蹟のようなことは書かれておらず、有名な、色即是空、空即是色のように、理屈で説いてくるから、万事合理的な思考を得意とする現代人には腹に落ちやすいのでしょう。
観音経は観音様を信じて念ずれば水難も火難もたちどころに避けられる、というような様々な奇蹟の事例をずらずらと並べて、すごいだろう、観音を念じれば誰でも悟りが開けるんだぞ、とばかりに偉そうです。
こちらは現代人の合理精神からは腑に落ちないので、狐につままれたような気分になります。
しかし宗教というものはみなそうですが、哲理の部分と、一心に信じ念ずる部分とを併せ持っているものです。
そういう意味で、日本仏教で般若心経と観音経が人気を二分しているというのは、じつにバランスのとれた宗教感覚であるように思います。
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