作家で翻訳家、批評家でもあった丸谷才一先生が87歳で亡くなられた、との報に接しました。
この人、英文学が出発点とあって、英国流のユーモアに富んだ、どこかシニカルな作風で、その思想性はともかく、私は好んで作品を読みました。
印象に残っているのは、「たった一人の反乱」と「裏声で歌へ君が代」ですかねぇ。
江藤淳などの保守的な文芸評論家から激しく攻撃されたりもしていたようですが、文学に政治性を持ち込んで自分の土俵に引きずりおろそうとした感じで、私は江藤淳のやり方を好みません。
私の出身大学でかつて助教授を務めていたことがあり、私が入学したときにはすでに退職してずいぶん経っていましたが、その厳しい講義は語り草になっていました。
私が教わった多くの教員は彼の講義を受けた経験があり、広い意味では私も孫弟子にあたるのかもしれません。
村上春樹のデヴュー作「風の歌の聴け」を新人賞選考委員として激賞し、彼を世に出したことも高く評価されています。
偏見の無い人だったように感じます。
惜しむらくは寡作だったこと。
エッセイや評論は多いのですが、キャリアが長いわりには小説が少ないのですよねぇ。
年齢的には大往生ということになるんでしょうが、残念です。

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