邪悪

文学

 魑魅魍魎の跋扈せし現世に生を受け四十有余年、我もまた同類なりと自覚す。
 我が隠したる悪、魑魅魍魎に倍すればなり。
 魑魅魍魎の類、ただおのが欲を満たさむと策をめぐらすのみにて、そは真の悪に非ず。
 我、堕天使ルシファーをも戦慄せしむべき邪悪を隠しいたり。

 ルシファー、ただ神との戦に敗れしのみにて、神敗れたれば、堕天使正義たるべし。
 而して我、天使、堕天使もろともに滅ぼし、現世の在り様を暗転せしめむと欲す。
 暗転したる後、起こるべき事態知るべからず。

 ヒトラー、ナポレオン、ポル・ポト、稀代の悪人なりと雖も、我が邪悪に勝らむや。

 我が邪悪の元は我が誕生したるを所以とす。
 今に至るも生を全うし得るは、悪の悪、闇の闇が我を守護せしめたればなり。

 知らず、悪の何たるか。
 ただ、人、我を邪悪と呼ぶこと多ければ、我、邪悪の存在なりと自覚したり。

 しかれども我、この世の法を破りたることなし。
 日々職務に精励せり。

 なにゆえ我、邪悪なりしか。

 そは、我が魂の運動、邪悪を志向したればなり。

 そも、邪悪とは何ぞ。

 魂、この世の暗転を望むの強きをもって、邪悪と呼ぶべきか。
 あるいは社会を呪詛したるをもって邪悪と呼ぶべきか。

 さ非ず。

 邪悪の邪悪たる所以のものは、純粋なる信仰なるべし。
 信仰といえど、そは神や仏を拝むに非ず。
 おのれの内奥より湧き出づる激流のごとき魂の運動を信ずるものなり。

 激流、善なれば善たる信仰、悪なれば悪の信仰に他ならず。

 善悪を分かつものはただ不思議の作用にて、知ること能はず。 

 我、己を知りたるその時より、邪悪の信仰に身を捧げざるを得ず。

 今はただ、信仰の快に浸るのみ。

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