邪魔

文学

   奥田英朗の長編、「邪魔」を読み終わりました。
 文庫本で上下巻、合せて800頁に及ぶ大作です。

 会社で宿直中、火事にあい、火傷を負った夫。
 被害者と思われた夫が、放火犯の疑いをかけられます。
 平凡な日常を守ろうとする妻。
 しかし、夫への疑いが深まるにつれ、妻は壊れていきます。
 平凡な日常などじつに脆いものだと、戦慄を覚えずにはいられませんでした。

 この小説には、サイドストーリーがあり、夫を追い詰める刑事の物語がそれです。
 数年前に妻を交通事故で失い、それ以来義母を頻繁に訪れては自分を慰めています。
 しかし、その義母は生きているのか、それが曖昧になっていき、サスペンスにホラーのスパイスを加味しています。
 この刑事もまた、壊れていくのです。

 さらにはこの刑事をオヤジ狩りのターゲットにし、逆に怪我を負わされた少年たちの物語も綴られます。
 少年たちも、破滅に向かって突き進んでいくのです。

 夫が邪魔な主婦、精神的に追い詰められ、生きることそのものが邪魔な刑事、将来を壊していく自分たちの行動が邪魔な少年たち。
 様々な邪魔が重層的につづられます。

 いやむしろ、「邪魔」というタイトルより、例えば「壊れる」とでもしたほうが相応しいかもしれません。
 
 長い小説ですが、飽きさせません。
 ただし、読後感はかなり後味が悪いものになっています。
 その後味の悪さこそが味わいなのかもしれません。
 いずれにしろ、疲れる小説でした。

邪魔(上) (講談社文庫)
奥田 英朗
講談社

 

邪魔(下) (講談社文庫)
関川 夏央
講談社


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