針供養

思想・学問

 今日、2月8日は針供養
 関西地方では12月8日が一般的だそうです。

 2月8日は農作業を開始する事始め。
 12月8日は農作業を終了する事納め。

 仕事の区切りに、家庭内の仕事の主役である針を、豆腐やこんにゃくなどの柔らかい物に刺して休ませる、という粋なはからいを実行に移そうというわけです。

 色さめし 針山並ぶ 供養かな   高浜虚子


 
写真の針は色などさめてはいないし、折れ曲がってもいないように見えますが、使えば傷むのは道具も人間も同じこと。


 傷めば手入れしなければならず、人間なら風呂に入ったり病院に行ったり、機械なら油を挿したり部品を取り換えたりしますが、針というあまりにもシンプルな道具を手入れする方法は、日頃堅い物にばかり刺していたものを、年に一度くらいは柔らかいものに刺して供養するとは、繊細で美しい感性ですねぇ。

 
わが国民は供養ということに関して洗練されています。

 針供養、鋏供養、鏡供養、表札供養、仏壇供養、印章供養、人形供養などなど。

 物を人間に対するように供養するのですねぇ。

  これは子どもの感覚に似ています。
 人形やぬいぐるみだけでなく、あらゆる物に人格を見て擬人化する。
 多くの文明国が捨ててしまったアニミズム的心性を、わが国は神道という形で洗練発達させ続け、今も多くの人々が全ての自然物、人工物に神性を見る習性を失っていません。

 それとは別ですが、敵味方供養と呼ばれる、敵も味方も犠牲になった方々は平等に供養しようという心をわが国民は持ち続けてきました。
 死してなお遺体に縄を打ったり、墓を作らせなかったりする欧米的な考え方とは正反対にあるものです。

 わがくにびとが持ち続ける優しい供養の精神に思いをいたしつつ、今日は豆腐を買って帰りましょうか。
 もっとも豆腐に刺すべき針など我が家には無いので、もっぱら私の腹を満たすためだけの物ですが。

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