今日は千葉市美術館に出かけました。
「鏑木清方と江戸の風情」展を観るためです。
この画家は明治30年頃から昭和40年代まで長く活躍した画家で、儚げでうつろな美人画が有名です。
同時代に活躍した、やはり美人画で有名な上村松園と並び称せられますが、上村松園の美人画は、ただ綺麗に過ぎ、鏑木清方のほうがセクシャルな感じを受けます。
上村松園が女性だったせいでしょうか。
で、時代を追って作品がずらりと並べられていたのですが、初期の挿絵を中心とした美人画はじつに活き活きとして、儚げながらも健康的な美を感じさせるのに対し、晩年、自身が幼少期を過ごした明治半ばの、江戸情緒を色濃く残す風俗を描き出した絵画群は、ぞっとするほど美的ながら、そこに描かれている人々に生気が感じられないのです。
まるでノスタルジックで美しい幽霊ででもあるかのような。
なんとなく、映画「異人たちとの夏」を思い出しました。
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解説では、関東大震災で彼のふるさと、東京が大きく変貌したのみならず、東京大空襲、それに続く戦後の変化などで懐かしい東京は記憶の中にしか存在しなくなり、年老いた画家はそれを追慕するかのように明治半ばの風俗を描き出した、と言うのです。
私は会場冒頭にある初期の美人画と、会場の最後に飾られた最晩年の明治半ばを追慕した風俗画を比較するため、何度も展覧会場を行ったりきたりして、画家の魂の漂流の激しさに感応したのか、最晩年のノスタルジックな風俗画を前にして、落涙を禁じえませんでした。
なんとも疲れる美術鑑賞で、ここまで絵画に疲労させられたのは、シャガール展やモロー展以来ですねぇ。
しかし疲労するということは、それだけ私の精神が画家の魂に激しく感応したということで、素晴らしい美的体験であったと言う他ありません。
画家は関東大震災、太平洋戦争を生き抜き、戦後は変わりすぎたふるさとを捨てて鎌倉に移り住み、昭和47年、93歳の天寿を全うしたそうです。
私は単に人混みが厭でふるさとからお隣、千葉に脱出したへなちょこ野郎で、それは平和な時代だからこそ許される贅沢であったのかと、今さらながら感じ入ったしだいです。
夢まぼろしの中にいるような、素晴らしい日曜日を過ごせたことは、私の喜びとするところです。
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