なぜ日本はあの無謀な戦争に突き進んでいったのか、という反省や分析は、よく目にするところです。
しかし、なぜ米国は、あのタフな戦争に突き進んでいったのか、という言説には、あまりお目にかかれません。
戦争は相手がなくてはできないので、こちらの事情だけではなく、あちらの事情も探ることが、今後の平和維持に役立つでしょう。
明治31年、ハワイ王国は米国に侵略された末、併合されます。
ハワイ王国は米国の脅威に立ち向かうため、同じ有色人種の日本政府との連邦化を望みますが、日本政府はこれを丁重に断っています。
また、米国がハワイを併合しようとした際には、日本人居留民保護の目的で軍艦を派遣し、米国軍艦のすぐ横に係留して米国をけん制するなど、ハワイ王国の独立維持に尽力しますが、さすがに米国と一戦交える覚悟はなく、引き上げます。
この時すでに、太平洋を挟んだ新興帝国主義国家の日本と米国は、いずれ戦う運命にあることを予感させたでしょう。
その他米国はメキシコと戦って南部諸州を併合し、スペインと戦ってフィリピンを手に入れ、グァムなど太平洋の島々を平らげていきます。
そしてその先には、日本や朝鮮、中国などのアジア国家が控えているわけですが、朝鮮は日本に併合され、中国は欧州諸国や日本につぎはぎに齧られ、米国はここに参加して中国に拠点を求めようとしますが、アジア経済は日本の影響下にあり、思うに任せません。
そしてついに、米国は英国、オランダ、オーストラリアと手を組み、日本に経済制裁を仕掛けてきます。
しかもあらゆる植民地を手放せ、という当時としては極めて非礼で無茶な要求を押し付けてきます。
誇り高い日本民族がこの屈辱に耐えられるわけもなく、真珠湾に一発かましたというわけです。
そして、米国大勝利。
米国には誤算がありました。
日本が本土決戦を回避して、早々と白旗を挙げたことです。
米国の読みでは、日本はドイツ同様、首都が陥落するまで徹底的に戦いぬき、結果として国家としての体裁を失うはずだったのです。
そのため、米国では日本が無政府状態に陥った場合の占領政策しか立案していませんでした。
ところが日本は国家としての統治能力どころか、朝鮮や台湾、満州でも統治能力を維持していたため、米国は日本を占領しても日本政府の意向を無視できず、米国による直接統治ではなく、日本政府をとおした間接統治を認めざるを得なかったわけです。
ここが、米国領にくみいれられた沖縄や小笠原と大きく異なる点でしょう。
結局米国は、日本を完膚なきまでに叩くことに失敗し、後の日本の急激な復興による日米経済摩擦などの遠因になったといえましょう。
それかあらぬか、アジア・アフリカ諸国はもはや昔のように大人しくはありませんでした。
米国はフィリピンなど、英国はインドなど、フランスはインドシナなどを次々と失い、結果として植民地帝国主義の時代は終わりを告げたのです。
皮肉なことです。
生意気で邪魔くさい大日本帝国を破った英米等の国々は、また白人お金持ちクラブでよろしくやろうと考えていたでしょうが、自らの巨大な利益を失う結果になってしまったのですから。
結果的に、大日本帝国は米英等と差しちがえたとも言えるでしょう。
大日本帝国政府は、その時点では全く意図していなかったでしょうけれど。
その後米国は朝鮮戦争を戦って勝てず、ベトナム戦争を戦って勝てず、しかし東西冷戦には勝利して、ついには遠く中東まで出張っていって湾岸線戦争、イラク戦争、アフガニスタンと、太平洋を越えてユーラシア大陸にいたり、西へ西へと際限なく進み、その様はまるで西部開拓を思わせます。
われらに大和魂があるごとく、彼らには開拓魂があって、それはまるで米国人の本能であるかのように、今だにそれを続けています。
米国は、ほぼいつの時代もどこかで戦争をしていますね。
今はイラクとアフガニスタンですね。
そう考えると、冒頭の問いに対する答えは、あってなきが如しです。
要するに、いつだって米国は、武力でおのれの利益を追求し、価値観を押し付けようとするのです。
相手は誰だって構いません。
米国が邪魔者だと思えば、理屈は後から付いてくるのです。
大日本帝国が他国を侵略したからとは嗤わせます。
進んだ文明国であるはずの西欧や米国の処世術を真似しただけです。
イラクが大量破壊兵器を持っているかもしれないからとは、ブラック・ジョークですか。
米国が世界で一番多くの大量破壊兵器を持っているではありませんか。
しかも戦後、イラクは大量破壊兵器を持っていなかったことが判明しました。
9.11テロへの報復であっちでもこっちでも無闇と人を殺しに行くのはおよしなさい。
バグダットはかつて、中東の真珠と言われ、名作「バグダット・カフェ」では米国西部にあるカフェにバグダットの名を冠して平和でオリエンタルな場所の象徴として米国民も認めていたのですよ。
それが今ではテロリストで溢れかえっているではありませんか。
しかし悲しいかな、わが国は米国軍の駐留を認め、わが国軍は米軍の補完勢力として位置づけられ、生殺与奪の権は米国が握っています。
現下の状況に鑑みて、わが国には対米追従という外交以外の政策オプションは、存在しないと言ってよいでしょう。
しかし、驕れる者は久しからず、盛者必衰と申します。
米国が衰えていく時、わが国は米国と心中しないように密かに米国抜きで国際社会を生き抜く知恵を身につけなければなりますまい。
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