昨夜書いた記事で、「リピーターズ」と石川淳の「至福千年」の類似を指摘しました。
その際、「至福千年」をぱらぱらと読み返し、止められなくなってしまいました。
戯作調の文体で難解な高い思想性を、幻想的な物語の中で語りつくす手法はこの作家特有のもので、後にも先にも例をみない、極めて特異な文学世界を紡ぎだす驚嘆すべきものです。
代表作にして最高傑作「紫苑物語」をはじめ、戦前の共産党の暗闘を描いた「普賢」や、戦後の焼け跡に神を見る「焼跡のイエス」など、私はかつて夢中になって読んだ記憶があります。
三島由紀夫や野間宏など、石川淳と同世代の作家たちは、石川淳をどう評価してよいものか戸惑ったらしく、敬して遠ざけるような態度をとっていました。
もし石川淳を批判したなら、その批判の刃はそっくりそのまま自分に返ってくると恐れたのかもしれません。
そしてまた、文学的評価が高いにも関わらず、あまり売れなかったことは、ひとえにわかりやすい語り口とは裏腹に、難解な思想を含んでいたためと思われます。
そんな中、はるか下の世代の文芸評論家、江藤淳は石川淳の文学世界を、一言、阿呆陀羅経と言い放ち、論評すらしようとしませんでした。
それは文芸評論家としての怠慢とも、石川淳のレベルについていけなかったためとも考えられますが、先輩諸氏がなしえなかった正直な感想を述べたことは、立派な態度であるといってもよいでしょう。
いずれにせよ、わが国古典文学に深く通じるとともに、旧制高校でフランス文学を教えていたという経歴を抜きにしては、この作家の作品を読み解くことはできません。
文体は江戸戯作調、内容は荒唐無稽とも言える幻想文学、そして思想の根本を流れるのは、西洋のキリスト教文化という、混乱ぶりです。
私は彼の文学を深く敬愛しながら、阿呆陀羅経の一言で片づけられたらどんなに楽だろうという思いを深くします。
あんなものは阿呆陀羅経だ、と言いたい欲望から離れられないのです。
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