陽射し

文学

 今日は昨日とはうってかわって冷たい北風が吹いています。
 惰弱な私は北風を嫌って、家に閉じこもっています。
 そうは言っても、朝夕に日が伸びているのを感じ、冷たい空気のなかにも陽射しが強くなってきているのを実感します。

 古来、わが国では花を待つ歌が詠まれてきました。
 春を待ち焦がれる気持ちは、暖房が行き届かない時代には現代よりもつよかったことでしょう。
 まして日本家屋は夏を快適に過ごせるように考えられてできています。
 冬は隙間風が吹いてさぞ寒かったことでしょう。
 私の実家は木造二階建ての古い家。
 コンクリートで固めた現在住まうマンションに引っ越して、冬の暖かいのに驚きました。

  
朝夕に 花待つころは思ひ寝の 夢のうちにぞ 咲きはじめける    

 千載和歌集に見られる崇徳院の歌です。
 花が咲くのを待つ思いが強くて、夢のなかで花が咲き始めた、という切ない思いを優美に詠んだものです。

 今の私が花を待つ気持ちと、平安の昔に崇徳院が待った気持ちとでは、違いがあるように思うかもしれませんが、そうではないと思っています。
 わがくにびとが花を待つ気持ちは、昔も今も変わらぬ、祈りのようなものです。
 過去から現在を貫くわが国の文化の矢とでもいったようなもの。
 上記の歌に接して、私はそう感じるのです。

 崇徳院は保元の乱で罪人となり、讃岐に配流され、二度と都に戻ることはありませんでした。
 その後崇徳院は髪や爪を伸びるに任せ、生きながら天狗になった、とも。
 いずれにしろ後の世に怨霊として名を残すこととはなりました。
 院の最期を思うとき、みやびな歌人であった前半生がしのばれ、この現代に平凡な家庭で生まれ育ったわが身の幸せを感謝せずにはいられません。

千載和歌集 (岩波文庫)
久保田 淳
岩波書店

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