露か涙か

文学

 雨が降っています。
 そのせいか、体がだるくて重い感じです。
 早くも梅雨を思わせて、憂愁の感を深くします。

 五月雨とは、旧暦5月の雨で、今で言う梅雨。
 今日は新暦5月11日なれど、梅雨のようですね。

 わずかな週末の訪れを心待ちにして平日を暮らす宮仕えの身であれば、貴重な土曜日にこれでは心浮き立つはずもありません。

 しかし、実りの秋を迎えるためには必須の時季だと知れば、ここは諦めるよりほかなさそうです。

 五月雨は 露か涙か不如帰 我が名をあげよ 雲の上まで

 狂乱の戦国時代を生きた足利幕府13代将軍、足利義輝の辞世です。
 この人、わずか11歳で実権を失った足利将軍家を継ぎ、家臣であるべき戦国大名同士の争いに巻き込まれたり、調停役を買ってでたり、なんとか将軍家に威光を取り戻そうとしますが、戦に巻き込まれ、30歳で討ち死にしたと伝えられます。

 従弟が14代を継ぎますが、わずか八か月で病死。
 15代は大河ドラマなどでおなじみの、織田信長に担ぎ出され、最後は太閤のお伽衆となった足利義昭です。
 驚くべきは足利家、姓を改めて江戸時代にも生き残り、実際の石高は1万石未満の小名だったにも関わらず、格式だけは10万石を与えられ、徳川将軍家の中でも別格の客分扱いで、明治維新以降は華族に名を連ねていること。
 
 血脈、恐るべし。

 この辞世、戦乱の世に実権のない将軍となってしまった悲哀を感じさせますねぇ。
 誰もがそれぞれの立場からくる役割から逃れられないのだとしたら、いっそう、涙なしには鑑賞し得ない和歌です。

 幸か不幸か、私は名もない一木端役人という気楽な立場で生きています。
 昔で言えば水呑百姓。
 社会の最底辺です。
 それだけに、高貴な生まれの人が負うべき義務も責任もありません。

 滑稽なのは、多くのサラリーマンが、自身を侍に擬して悦に入っていること。
 それはご勝手ですが、小作人に擬するほうが正確だと思いますよ、ご同輩。

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