青という色、爽やかな青春のイメージが強いでしょうか。
白鳥は かなしからずや 空の青 海のあをにも染まず漂ふ 若山牧水
この有名な和歌は、青という色の持つ印象を端的に表しているように思います。
言わば、正の青。
しかし青には、邪のそれが存在することを、認めないわけにはいきません。
例えば、青髭男爵、ジル・ド・レー。
彼は領地の村に住む少年を次から次にさらっては虐殺し、悪魔に捧げて後はその死骸で淫らな欲望を満たしました。
一説には、その数、600名とも。
酒鬼薔薇聖斗や宮崎勤が権力を握った場合を想像してみれば分かりやすいでしょう。
そしてまた、「雨月物語」に見られる青頭巾。
美濃の国の高僧が、越の国から来た稚児を寵愛し、稚児が病に没すると稚児の遺骸を何日も抱き、ついには稚児の死肉を喰らい、骨をしゃぶり、気がふれて鬼に変じてしまいます。
以来、墓を暴いては死肉を喰らうすさまじい生活を送るようになり、村人たちから恐れられます。
それを旅の禅師が説得し、悪行を止めさせます。
青頭巾は、鬼から高僧へと戻るためのまじないのような役割を果たします。
映画「ブルークリスマス」では、UFOを目撃した者の血が青くなってしまうという異常な現象を題材にしています。
各国政府は、あまりにも青い血の者が増えたため、クリスマス・イブに彼らを大虐殺しようとするのです。
皮肉なことに、血が青くなった者は、闘争心を失っているというのに。
異種の存在を許せない人間の本性を表すのに、青い血を象徴的に使っているあたり、あざとさすら感じます。
「グラン・ブルー」は正のように見えて、人を魅了して死に追いやる海の青の美と恐怖を描いた邪の青に関する映画史に残る名作ですね。
キタノ・ブルーは、画面を観ただけで条件反射のように激しい暴力描写を思い起こさせます。
美しく爽やかな青が、なぜかくも人々を恐れさせる物語の象徴足りうるのでしょうね。
なんだか不思議です。
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