昨日、病院から帰って、吉田修一の中篇を読みました。
「静かな爆弾」です。
![]() | 静かな爆弾 (中公文庫) |
吉田 修一 | |
中央公論新社 |
テレビ局でドキュメンタリー製作の仕事をしている早川。
彼は神宮外苑の1LDKのアパートで一人暮らし。
神宮外苑に散歩に出かけ、響子という耳の不自由な女性と知り合いになります。
このあたり、作者の芥川賞受賞作「パーク・ライフ」を彷彿とさせます。
かの作品は日比谷公園で出会った男女の恋模様を描いたものでした。
![]() | パーク・ライフ (文春文庫) |
吉田 修一 | |
文藝春秋 |
早川はバーミャンの大仏遺跡が爆破された真相を追って、中東と日本を行き来する忙しい日常を送っています。
そんな中、早川は響子との付き合いを始めます。
神宮外苑や青山、千駄ヶ谷あたりを舞台にして、二人の、静かな恋が進行します。
響子は耳が不自由であるがゆえ、通常の言葉によるコミュニケーションが取れません。
簡単な言葉なら、口の動きで読み取ることができますが、ちょっと複雑になると筆談に頼らざるを得ません。
最小限の言葉で、効果的にコミュニケーションを続けるうちに、言葉に出さず、紙に書くことによって、そこには妙に冷静な雰囲気が漂い、一歩間違えれば喧嘩になってしまうようなことも、静かな言葉のつむぎあいにならざるを得ないことに気づきます。
響子に強く惹かれる早川。
しかし、響子という女性、どこか暖簾に腕押しといった風で、もどかしくも感じます。
特になにが起こるというわけでもない静かな物語が語られ、二人の前途はきっと明るいのであろうという余韻を残して、物語は終わります。
文庫本で200ページ強と短い小説で、印象的なフレーズと、なによりその静けさが読む者の心を打ちます。
何度か読み返すことになりそうです。