食う

その他

   なんだか急に暑くなりました。
 ビールが旨い季節です。

 もっとも、寒けりゃ寒いで今度は熱燗が旨くなるのですから、酒のみなんて一年中暑いだの寒いだの、目出度いだの厄落としだのと理由をこじつけては飲んでいるものです。

 よくイタリア人は、食う、歌う、愛すの三つを人生の喜びとしているとかいう単純な話を耳にします。

 まぁ、象徴的な言葉なのでしょうが、複雑な歴史を背負ったイタリア人がそんなに単純なわけはあるまいと、天邪鬼な私は邪推してしまいます。

 それはさておき。

 この中の食うには、当然飲むも入っているはずで、旨い物を食い、旨い酒に酔うのは人生最高の喜びであることは、日伊共通のようですね。
 歌うはどうでしょうかねぇ。
 世の中音痴も多いし、鼻歌くらいは歌うかもしれませんが、イタリア人だって歌うのが好きな人ばかりとは思えません。
 愛すというのはおそらく性愛のことでしょうね。
 親子愛とか、ましてや人類愛などではありますまい。
 まぁ、誰にでも性欲はあるし、異性愛者にしろ同性愛者にしろ、大方の、特に若い男は大好物でしょうねぇ。
 私も20代半ばまではそうでした。
 28歳で結婚してから急速に衰えましたが。 

 年を取ればとるほどつのってくるのは、旨い物を食いたい、旨い酒を飲みたいという、食への欲求です。
 但し、量は食えませんので、少量の旨い物を求めることになります。
 こればっかりは衰えることがありません。

 食う、歌う、愛すのうち、今も私の中で大きな位置を占めているのは、食う、だけですねぇ。
 卑しいものです。

 「瘋癲老人日記」のように、年老いてなお盛ん、みたいになりたかったですねぇ。

鍵・瘋癲老人日記 (新潮文庫)
谷崎 潤一郎
新潮社