高等遊民

文学

 最近、非正規雇用者の増大やニートが社会問題になっています。
 明治末期から昭和初期にかけても、似たような問題がありました。

 高等遊民の問題です。
 高い教育を受けながら、就職せずにふらふら遊んでいるインテリです。

 高等遊民というと、真っ先に思い浮かぶのは夏目漱石「それから」に出てくる主人公でしょう。
 高等教育を受けながら職に就かず、親からの仕送りで家に書生まで置いて読書や観劇にひたり、友人の奥さんと不倫する、どうしようもないやつです。
 松田優作藤谷美和子主演で映画化もされました。
 ささやくようなセリフまわしの、静かな良い映画でした。

 時の政府は高等遊民が共産主義や無政府主義などの反国家的な思想傾向を持ちやすいことから、これらを根絶やしにしようとしました。
 つまり、職に就かせようというわけです。
 しかし、高等遊民には武士は食わねど高楊枝的な態度の者が多く、求人があっても大学出の自分には不釣り合い、として断ってしまうことが多々あったと言います。
 これなど、現在見られる大企業志向とだぶりますね。

 高等遊民と言っても「それから」の主人公のように裕福な者ばかりではなく、生活のために日雇いの仕事をしながら、空いた時間でインテリらしい趣味を楽しむ者もいたとか。
 そういった人は正規雇用をあえて拒否し、自由な時間を多く持てる日雇いで良い、と考えていたらしいのです。

 もっとひどいのになると、インテリ・ルンペンなどと呼ばれ、物乞いをして暮らす者もあったとか。

 一口に高等遊民と言っても、お金のあるなしで随分暮らしぶりは異なっていたようです。

 さて「それから」の主人公ですが、不倫の果てに親が用意したお見合いを断わってしまい、父親から勘当されて金銭的に困窮してしまいます。

 ヒュー・グラント主演の映画「アバウト・ア・ボーイ」では、38歳の独身男が、父親の遺産で優雅に遊んで暮らしています。
 「それから」と違うのは、父親がもう死んじゃって遺産を受け取っているので、金銭的に困ることは一生ないということです。

 結局現在の非正規雇用やニートの問題も、かつての高等遊民の問題も、行きつくところは金があるかないかになってしまいます。
 
 よく、お金では買えないものもある、なんて言いますね。
 しかし日常生活を送る上で、金で買えないものを探すのは困難です。
 大金持ちなら不細工で嫌な奴でも結婚相手はみつかるでしょうし、近頃では精子バンクで有能な遺伝子を持った精子を買って妊娠するシングルマザーもいます。
 私が想像できる範囲で、抽象的なもの以外、金で買えない物はないように思います。

 非正規雇用やニートが高齢化して年金を受け取れない状況になると、生活保護費を圧迫する可能性が大です。
 純粋に金目の話として、雇用の問題を考えないといけません。
 ただ、行きたくない会社に入社するのは嫌でしょうけどねぇ。 

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