久方ぶりに長編小説を読みました。
中世ヨーロッパを舞台にした作品を多く手掛ける佐藤賢一の快作、「黒王妃」です。
![]() | 黒王妃 |
佐藤 賢一 | |
講談社 |
夫の死以来、黒い服しか着なくなった王妃、カトリーヌ・ド・メディシスを主人公に、カソリックとプロテスタントが激しく対立し、時には内乱にまでなる16世紀を舞台に、主人公と夫との愛、夫の愛人との暗闘が描かれ、さらに夫亡き後、少年の息子が即位してからは政治の実権を握って暗躍するさまが、スリリングに描かれています。
わが国で言えばちょうど戦国時代にあたる時代で、ヨーロッパでは様々な王国、公国が乱立し、さらにプロテスタントとカソリックの争いがからんでとんでもないことになっちゃっています。
いずこの国も領土や資源欲しさにもっともらしい理由をつけて殺し合いを演じた時代があるのですねぇ。
カトリーヌ・ド・メディシスといえば、サン・バルテルミの虐殺が知られています。
フランスで、カソリックがプロテスタントを大量虐殺した事件ですが、それも彼女が主導したと言われています。
もっとも、黒王妃は長いこと両者が平和裏に共存する社会を目指す宥和政策を採ってきました。
その王妃がプロテスタントの大量虐殺に踏み切るまでの精神上の運動が、じつに面白く感じました。
わが国でも、比叡山の焼き打ちという大事件が起こりましたね。
あの信長を最も手こずらせたというのですから、宗教が持つ力というのは絶大です。
本来宗教というものは、人々を幸福にするためにあるはずです。
しかし、ある宗教が正しいと信じ込めば、他の宗教が許せないというのは道理ですが、少しは寛容の精神を持つべきでしょう。
それにしてもこの人の小説を読むと、いつも戸惑います。
名前も地名も横文字で、しかも同じ名前に一世だとか二世だとか、さらに地名を出されてもそれがどの辺りなのか分からず、難儀します。
それでも読者をぐいぐいと惹き付ける力技は、見事としか言い様がありません。