歌と音楽、それに古事記

文学

 私は最近、歌が聞けません。
 人間の声が、邪魔なものに聞こえて仕方ないのです。騒音と言ってもいいでしょう。

 かつては、クラシックとか、ジャズとか、歌が付いていないものに興味がありませんでした。人間の声を、愛おしいと感じていました。
 
 これは病気のせいなのか、単に年をくっただけなのか。
 
 最近の私は、クラシックばかり聞いています。
 昔の私からは、想像できないことです。
 創作するときは壮大なシンフォニーで気持ちを持ち上げ、そうでないときはピアノの小曲などを聞いて気持ちを落ち着かせています。

 それにしても、歌というのは、そもそも音楽というべきでしょうか、それとも、文学というべきでしょうか。
 和歌などは、文学として扱われています。しかし、節をつけて読み上げるところなどは、音楽の要素もあるといえます。

 わが国の神話を記した「古事記」も、かつてはそれを老人たちが朗々と歌い上げ、口伝で伝えられたと言います。アイヌ民族のユーカラに似ています。
 それを、稗田阿礼が歌い、太安万侶が文字にして残したとか。「古事記」は、稗田阿礼と太安万侶のおかげで、美しい日本語として、今も我々日本人を圧倒します。

 そう考えてみると、歌と音楽を別に考える今の私こそ、まさに病気なのかもしれません。