子どもの頃、H.G.ウェルズのSF小説をよく読みました。
「タイム・マシン」、「透明人間」、「モロー博士の島」等々。
いずれも優れたエンターテイメントであり、19世紀末の社会を風刺する文明批評でもありました。
これらの小説と退廃を結び付けて論じた論文を読みました。
太田省一という社会学者による論文で、タイトルは「退廃・獣人・嫌悪」といいます。
ダーウィンの進化論を援用して、生物は一方向に向かって進化していくのではなく、むやみに多くの変種を生み、たまたま自然に適応した種だけが生き残るので、人類は進化でも退化でもない状態=退廃の状態に置かれる、と人間の状況を定義付けます。
「タイム・マシン」では80万年後の、労働から解放されたユートピアのような世界に住む、優雅で温和なエロイと出会い、彼らの生活に主人公は安堵します。しかし、それは地下で労働をもっぱらにする獣人モ―ロックによって支えられていることを知ります。さらに恐怖すべき発見をします。モーロックの食糧はエロイなのです。
主人公はさらに未来へと進み、もはや人類の末裔は見つかりません。
それでも、主人公は未来へと進みます。
19世紀末に戻り、主人公は人間は絶滅に向かって突き進んでいることを知ってしまったが、そうではないふりをして生きていくしかない、と決意します。
退化に至る以前の、退廃を受け入れようとする態度です。
しかし結局、再び時間旅行に出かけ、二度と戻ってこないのです。
「モロー博士の島」では、獣を手術などで人間に近づけようとするマッドサイエンティスト、モロー博士が、自らの手で進化を成し遂げようと奮闘します。
助手はアル中で、人間社会に居場所がなく、博士の手伝いをしています。獣人にわが身を見つけ、シンパシーを感じています。この曖昧な助手こそ、退廃の誘惑に捉われた象徴的人物です。
この小説は二度映画化されており、最初は子どもの頃テレビで観ました。二回目は映画館で観ましたが、どちらもよくできていました。
論者はこれら事例から、退廃は群衆の不安を露呈する、と結論づけています。
退廃が人間社会の逃れられない実態だとしたら、私たちはどうすればいいんでしょうね。
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