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思想・学問

 私は大学や研究所で事務職をしてきたので、多くの学者と接しました。
 その中で、最も人懐こく、事務職員に親和的だったのは、教育学者です。
 多くの教育学者と酒を飲んだり、出張に同行したりしました。
 少なくとも私が接した教育学者は例外なく、人懐こかったですね。
 
 面白いことにセクシャル・ハラスメントを起こす学者は大抵教育学者なんですよね。
 多分過剰なコミュニケーションを求めて、女子学生を不快にさせるんじゃないでしょうか。

 ある著名な教育学者は、陰徳ということをよく言っていました。
 古い中国の書物「淮南子」に、陰徳有る者は必ず陽報有り、という文言があるそうです。
 陰で人知れず善行をなし、褒美や名誉を求めないでいれば、本人が求めなくても必ず良いことがある、というほどの意です。
 ルソーの「エミール」にも同じようなことが書かれていると聞きました。

 じつは教育学の大先生(当時私が勤めていた大学の副学長でした)の京都大学への出張に同行したとき、旅費規程上は大先生はグリーン車に乗れるのですが、とびお君と一緒がいい、と言って普通指定席に並んで座り、東京から京都まで、延々話を聞いたのです。(おやじギャグを笑いながらかまされたりして、結構苦痛でした)

 いかにも無邪気で明るいおじいちゃんでしたが、私は陰徳ということも、「エミール」なる書物についても、興味を持てませんでした。
 教育というより思想や宗教に近づき、しかもそれは現世をうまく生きる方便に過ぎず、私にとっての人生のキーワードである、この世ならぬものへの予感から最も遠いところにあると感じたのです。

 私の学生時代の友人には高校教諭になった者がやたらと多く、教育学部ではないのに教育者を多く輩出する変な大学でした。
 大先生の長口舌を聞いて、やっぱり教員を目指さなくて良かった、と思いました。
 陰徳、私には無縁な概念です。
 人間なんて不可思議な生き物。教えられても簡単に実行できるものではありますまい。
 

淮南子の思想 老荘的世界 (講談社学術文庫)
金谷 治
講談社
エミール〈上〉 (岩波文庫)
今野 一雄
岩波書店
エミール〈中〉 (岩波文庫)
今野 一雄
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エミール 下  岩波文庫 青 622-3
今野 一雄
岩波書店

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