満開

文学

 職場近くの公園の桜が、満開になっていました。
 春なんですねぇ。
 しかし満開の桜はどこかさびしげです。
 命のはかなさを知っているからでしょうか。

 
もろともに あはれと思へ山桜 花よりほかに 知る人もなし

 百人一首にも取り上げられた有名な 大僧正行尊の和歌です。
 私が山桜をなつかしく思うのと同じように私のことをなつかしくおもってくれ、こんな山奥では花よりほかに知る人もいないのだから、といった意味かと思います。 

 この歌はさびしさを歌っていますね。 
 それは桜の本性であるかのごとくです。

 では「山家集」所収の西行法師のあまりにも有名な歌。

 
願はくは 花の下にて春死なん そのきさらぎの望月の頃 

 この歌ほど日本人に愛され、人口に膾炙されてきた歌も珍しいでしょう。
 数寄の極地をあらわしているともいえます。
 しかし桜を賛美しているようで、満開の桜の下で死にたいと、桜は滅びゆくものの象徴であることを暗示してもいます。

 では、桜が散った後の歌を「新古今和歌集」から。
 式子内親王の歌です。
 
 
花は散り その色となくながむれば むなしき空に 春雨ぞ降る 

 桜の花は散ってしまい、その様子を眺めていると春雨が降ってきてますます空しい気分になる、といった意かと思います。

 桜を詠んだ和歌というのはあまり華やかではないのが多いように思います。
 桜の時期の短さを思えば、当然かもしれません。

 お口直しに、少し華やかなのを。
 
 
清水へ 祇園をよぎる 桜月夜 今宵逢ふ人 みなうつくしき 

 「みだれ髪」にみられる与謝野晶子の、心躍るような和歌です。
 晶子20代前半の作ですから、若さゆえの桜にはしゃぐ気持ちを素直に詠んだものでしょう。

 和歌によって様々な表情を見せる桜の変化を、和歌を口ずさみながらお花見に臨んだら楽しいかもしれません。
 
 しかし明日は雨らしいですね。
 明後日に期待しましょう。

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