世田谷区で、酒に酔った19歳の大学生が、次々に車に放火、炎上までは至らないながら、器物損壊の罪で逮捕されたそうです。
その理由が嗤えます。
自分の音楽性のなさに腹が立った、そうです。
なんでも学生は音楽を専攻しており、自分に才能がないことを自覚し、自棄を起こしたものと思われます。
迷惑なやつですねぇ。
才能が無いからと言って一々犯罪を犯していては、この世は犯罪だらけになっちゃいます。
世の中のほとんどの人は突出した才能なんて持っていませんからねぇ。
逆に言えば、わずかの人しか持たないから才能はもてはやされるんですよねぇ。
映画「アマデウス」では、モーツァルトの才能に嫉妬し、モーツァルトを暗殺しようとする宮廷音楽家、サリエリの姿が描かれています。
当時の宮廷ではモーツァルトよりサリエリのほうが評価が高く、その時代で最高の音楽家として遇されていました。
しかし、サリエリは知っていました。
後世に名を残すのは女好きで酒飲みでだらしのないモーツァルトであり、自分の音楽は早晩忘れ去られてしまうことを。
しかもそれは、サリエリ存命中に的中してしまうのです。
天才的な聴く能力を与えられながら、平凡な作る能力しか持たなかった男の悲劇。
彼は晩年を精神病院で過ごし、平凡の王を名乗るのです。
若いうちはとかく自分を過信し、才能を開花させてついでに金も儲けて面白おかしく暮らそうと夢見るもの。
しかしそれはごく少数の天才にしか許されない特別なことだとやがて気付き、日々の食糧を得て日常生活を安定させるために、つまらない仕事に就くのです。
大多数のつまらない仕事に従事する凡人によって、世の中は成立しています。
単純肉体労働、事務、営業、販売、どれも面白いとは言い難いながら、なくてはならない仕事です。
くたびれ切った初老の安サラリーマンだって、若い頃は身分不相応な野望を抱いていたかもしれません。
しかし日々を懸命に生きるうち、くたびれ切ってしまったのです。
くたびれ切ったその姿は、その人の汗と苦労が作り出した勲章とでも言うべきものです。
その点、私はまだ苦労が足りないようです。
精神病を発症した当初は世界一不幸だ、くらい思いましたが、今では、発症したおかげで無理をしなくなりました。
無理な仕事を押し付けられそうになったら、はっきり断る勇気を持てるようになりました。
放火を犯した大学生、本当に才能がないのかどうか知りませんが、少なくとも犯罪を犯せば罰せられることだけは学んだでしょう。
牛歩の歩みでも良いから、そうやって世間を学び、知恵をつけていくことです。
やがて、凡人こそが世の中の主流であり、必要な人材なのだと気づくでしょう。
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![]() | サリエーリ―モーツァルトに消された宮廷楽長 |
水谷 彰良 | |
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