「遊星からの物体X」で有名なジョン・カーペンター監督の幻の名作、「マウス・オブ・マッドネス」を昨夜鑑賞しました。
幻と言われるのは、出回っているDVDが極端に少ないからです。
架空の神話として有名なH.P.ラブクラフトのクトゥルー神話やクライブ・バーカーの「ヘルレイザー」シリーズや「血の本」シリーズを思わせる、極めて神話的な物語に仕上がっています。
ベストセラー・ホラー作家、ケーンが失踪します。
彼に保険をかけていた出版社は、保険の外交員に、ケーンの生死の確認と、死んでいたなら保険金の支払いを、生きていたなら原稿を求めたいと依頼してきます。
外交員は保険金欲しさの出版社とケーンによる自作自演を疑いながらも、調査を開始します。
ちょうどその頃、ケーンの最新作を読んだ者が、次々と精神に変調をきたし、暴力事件が頻発、社会問題になります。
外交員はそんな馬鹿な、と思いながら調査の一環としてケーンの最新作を読み始めます。
どうせ子ども騙しだろうと高をくくっていたところ、小説の面白さにぐいぐいと引きこまれます。
わが国でも、かつて読むと気が狂うと称された優れた小説がありました。
夢野久作の「ドグラ・マグラ」です。
人類進化の謎を追った、螺旋状の物語で、最後が冒頭になり、冒頭がラストになる、という魅力的な物語構成で、夢中で読んだ記憶があります。
でも気は狂いませんでした。
あ、でも読んで20年後に精神障害になりましたから、やっぱり狂ったのかな?
ケーンの作品には、人間が誕生するはるか以前から地球上に存在した、人間から見て邪悪なものの存在が描かれています。
その扉となるのが、ホブの町という架空の町の教会の地下深く。
外交員は独特の方法でホブの町の実在を突きとめ、美人編集者とその町を訪れます。
そこから、現実にいるのかケーンによる虚構の世界に引きずり込まれたのか、どちらとも言えない不思議な世界で、外交員はケーンを発見し、原稿を受け取ります。
しかし外交員は、ケーンの原稿は人を狂わせると確信し、燃やしてしまいます。
ことの一部始終を出版社の社長に語ると、社長は、「原稿はここにある。数か月前に君からもらった。本は大ベストセラーで、近々映画も公開される。それと、その美人編集者だが、わが社にはそんな者は存在しない」と、それまで語られてきた物語すべてをひっくり返すようなことを言うのです。
やがて外交員は精神に変調をきたし、精神病院の閉鎖病棟に閉じ込められます。
彼の要求は一本の黒いクレヨン。
それで顔と言わず体と言わず、壁と言わず衣服と言わず、汚い十字架を描き、閉鎖病棟をキリスト教の結界を張った場所に変貌させ、がたがた震えているのです。
残酷描写はほとんどなく、邪悪な物の姿もありません。
あるのは、邪悪な物の気配と、ケーンの小説でおかしくなっていく大勢の読者。
すぐれた心理描写によって、この映画は世にも怖ろしいホラーに仕上がっています。
コアなホラー・ファンである私が、昨夜はこの映画に描かれた世界に引きずり込まれる悪夢を見てうなされてしまいました。
ホラーファン冥利に尽きるというものです。
ジョン・カーペンター、見事です。

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