ふしだらな娘

思想・学問

 14歳の少女が男と駆け落ちし、家に連れ戻されたのは良いとして、就寝中、父親に斬首されるという事件がイランで起きたそうです。

 イスラム社会で時折見られる名誉殺人というやつです。

 少女は警察に保護された時、家に帰れば命の危険があるので、どこか別の場所で保護してほしいと懇願したそうですが、結局少女の危惧は当たってしまいました。

 江戸時代、不義密通は死刑だったと聞きますが、それは大人のこと。

 14歳で恋に落ちれば、何も見えなくなって愚かな行動にでるというのは、大人になれば大抵の人は知っています。

 父親は我が子をふしだらな娘と決めつけ、殺害に及んだということです。
 父親は禁固9年の刑を言い渡されました。

 軽い。

 殺人を犯して、禁固9年とは何事ですか。
 ましてイランは重罰を科すお国柄。

 母親は、夫を死刑に処すことを求めているとか。
 9年後に出てきたら、他の家族も危ないと危惧しているそうです。

 名誉と暴力については、米国南部の人々を対象とした研究で考察されています。

 それはさておき。
 
 我が国では、恥辱を受けた時、何か月も蟄居したり、腹を切ったり、己の身を傷つけることでそれを晴らそうとしました。

 しかしイスラム社会では、恥辱の原因となった相手に危害を加えることで、名誉を回復しようと図るようです。

 そしてまた、イランの司法当局も名誉殺人をある程度認めていると思えてなりません。
 司法といえども己が文化の影響からは逃れられないようで、だからこそ、懲役9年という軽い刑を言い渡したのでしょう。

 名誉とは何でしょうね。

 おそらくは、共同体の中の価値観を守り、それを継続することによって得られるものだと思います。
 したがって、共同体によって価値観は異なるので、名誉の概念は共同体ごとに異なるものにならざるを得ません。

 イスラム社会は性に対して厳しい価値観を持っているようで、例えば同性愛は未だに死刑だそうです。

 また、イスラム教に絶対の価値を見出しているため、尊敬する人物を問われたご婦人が、当時イランで放送されて大人気だった、おしんと答えたところ、逮捕されて死刑を言い渡されたそうです。

 理由は、イスラム教徒ではない人物を尊敬したから。
 ただし、すぐに恩赦となり、釈放されたそうですが。

 そのような価値観を持つ人々が数多く存在すると知って、世界の価値観はあまりにも多様であることを思い、慄然とします。

 我が国の倫理観は逆におおらかです。
 
 源氏物語の昔から、性的逸脱は認められていたようですし、戦国武将にいたっては、バイセクシャルが良いとされ、ストレートは無粋なやつとみなされたと聞いたことがあります。

 江戸時代には、少年を買う陰間茶屋なるものが堂々と営業していたとか。

 明治にいたって、西洋的倫理観が入ってきて、性的逸脱は許されない(表向きは)とされたようです。 

 今、自由民主主義を標榜する国家では、同性愛者に対する差別は根強く残っているとはいうものの、同性愛者やトランスジェンダーなど、性的少数者を差別してはいけないことになりました。

 しかしそれは、我が国においては元の価値観にもどっただけのこと。

 私は女性にしか興味がない異性愛者ですが、両刀使いだったら人生が二倍楽しくなったんじゃないかと思います。

 世界の性に対する価値感が大きく変わろうとしている今、イスラム社会ではあまりにも厳しい倫理観を保っているのですね。

 イスラム教徒の考えを否定する気はありませんが、少々羽目を外した我が娘を殺さなければならない、という考えがあるのだとすれば、私は日本に生まれて本当に良かったと思います。