文学

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大いなる助走

筒井康隆の小説に、「大いなる助走」という作品があります。 同人誌に参加し、自分が所属する大企業を内幕を暴露した小説を書いた青年が、大企業にいられなくなり、直本賞なる権威ある文学賞を受賞するため、選考委員にあの手この手で働きかけ、しかし受賞を逃がし、選考委員を殺害してまわる、というハチャメチャな小説です。 直本賞を受賞するために、女好きの選考委員には恋人を差出し、男色家の選考委員には自らの体を捧げ、金を積み、それでも受賞できなかった青年は、ほぼ頭が狂います。 映画化もされ、佐藤浩市が青年作家を演じ、鬼気迫るなかにもどこか滑稽な、このおとぎ話の主人公を演じて見事です。 半分呆けちゃった選考委員がいたり、実力がある新人作家は選考委員の生活を脅かすという理由で落としたり、ちょうどその頃筒井康隆が何度も直木賞候補に挙がりながらついに受賞できなかった私怨ばらしの小説と評され、筒井康隆は世の中に私怨ばらしではない小説があるか、と開き直って話題になりましたね。 これを読んだのは高校生の頃で、「大いなる助走」、というタイトルがすんごく気になりました。 つまり同人誌などで書いているのはプロになるための助走...
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俗情との結託

大西巨人といえば、あまりにも長い小説「神聖喜劇」が有名です。 これは第二次大戦中の対馬守備隊を舞台に、驚異的な記憶力を持つインテリの新兵が、その記憶力と法的知識を武器に、上官らと対決する姿をとおして、旧日本軍、ひいては組織全般が持つ非人間性を提示してみせたもので、長く緻密な描写と神学論争とも言うべきディスカッションが延々と続き、正直、面白くありません。 私はそもそも理屈が勝った小説を好みませんので、辛抱たまらず途中で投げ出し、幻冬舎から出ている漫画版でどうにか読みとおした記憶があります。 しかしこの作者が「神聖喜劇」を発表する以前、俗情との結託を排する文学論を唱えていたことを思えば、その面白みのなさも納得できるところです。 俗情とは、人情、あらゆる欲望、社会世相など、人間が生きる要素すべてと言っていいでしょう。 すなわち文学とは俗情を描くものであるとも言え、俗情との結託はいわば文学の必然というべきものです。 しかし大西巨人は、俗情との結託である文学・芸術を批判しています。 その結果現れるのが、俗情と乖離しながら俗情らしきものを客観的に提示し、なんらの解釈も加えず、面白そうでもなく、感動...
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秋雨

久しぶりに本格的な雨ですねぇ。 秋雨というには少し寒いでしょうか。 今シーズン初めて、コートを着て出勤しました。 通勤の電車内では、少し浮いていました。 まだちょっと暑かったかもしれません。 秋といえば、月にしても菊にしても、わが国の和歌や俳句ではもっとも多く詠まれる時期であり、風情漂う季節です。 秋には過ごしやすい季節でありながら、冬の足音に慄くどこかさびしげな感が漂います。 俳句の名手、正岡子規の秋雨の句からいくつか拾って、秋雨を詠む作法を見てみます。 犬痩せて 山門淋し 秋の雨     犬痩せて、という文句が不気味で良いですねぇ。 さびれたお寺の山門に、雨の中痩せこけた犬。 一幅の絵のような句です。 秋雨や 色のさめたる 緋の袴 色がさめた緋というのが貧乏くさくて寂しさを盛り上げています。 その袴、やっぱりはくんでしょうねぇ。 はきたくないですねぇ。 秋の雨 香爐の烟 つひに絶えぬ べつになんということもない現象なのですが、つひに、という文句が効いていますねぇ。 なんということもない現象が、限りない寂しさを象徴しているように感じられるから不思議です。 わずか三つの秋雨の句を見ただ...
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朝と夜

よく年寄りになると夜は起きていられず、朝日が昇ると寝ていられない、とか言います。 私は学生の頃は朝寝坊の宵っ張りでしたが、就職して三年もすると、夜は疲れて起きていられず、朝は5時には目が覚めてしまうようになりました。 うつ病で休み始めたときは一日23時間くらい寝ていましたねぇ。 よほど脳が休息を求めていたものと思われます。 躁転すると、今度はほとんど寝なくてもいつも元気、という異常な状態が半年くらい続き、電池切れのように倒れて二度目の休職になりました。 今は22時半から23時頃寝て5時頃起きる、という良いリズムになっています。 でもまともに頭が働くのは15時くらいまでですねぇ。 それ以降は疲れちゃって、無理やり働いている感じです。 研究者というのは両極端に分かれるようで、昼頃出勤して明け方帰る人もいれば、16時頃帰って翌朝7時には出勤している人や、20時には寝て深夜3時頃起きる、という修行僧のような人もいます。 私のような事務職ではフレックス勤務が認められていないので、そういう極端なことはできません。 20年働いても仕事に慣れるということがないような気がしていますが、体内時計はしっかり...
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アブノーマル

老人の性を描いた小説といえば、谷崎潤一郎の「瘋癲老人日記」とか、川端康成の「眠れる美女」とか、筒井康隆の「敵」とか、優れた作品が多くあります。 一つには、老人といえど性欲があって、ところが世間は老人の性を忌避する傾向があり、そこを逆手にとると興味深い物語が生まれるのでしょう。 私もあと30年もすれば、これら秀作の本当の面白さが分かるかもしれません。 先日、72歳の無職男性が小学校五年生の女児の尻を触ったとかで逮捕されたそうです。 世に小児性愛者というのがいて、例えば「鏡の国のアリス」などで著名なルイス・キャロルは老人になっても小児しか興味を持たなかったと伝えられています。 これは誠に不幸なことですね。 私のストライク・ゾーンは20代半ばの健康な女性で、おっかなくない人ですので、世間的にはまったく面白くない性癖で、下着などにも全く興味がありません。 まして強姦など不可能です。 目の前で必死で抵抗されたら、使える物も使えなくなってしまいます。 おそらく世の中の大多数の男性はそうでしょう。 私のような趣味嗜好を持っていると、恋愛沙汰に陥っても、風俗遊びをするにしても、たいへん楽です。 世間が...
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