文学

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ララピポ

昨夜は水割りをちびちびやりながら、小説を楽しみました。 奥田英朗の「ララピポ」です。 対人恐怖症のフリーライター、NOと言えないカラオケボックス店員、AV・風俗専門のスカウトマン、デブ専裏DVD女優のテープリライターなど、社会からはみ出した人々の日常を同時並行的に描き、最終章に至って全員の人生が交差する群像劇です。 このようなスタイルの物語はわりあいたくさん見られます。  職場で学校で、あるいは趣味で、多くの人々と出会い、人生が一瞬といえども交差するわけですが、その瞬間に至るまで、私たちは同時代を並行して、互いを知らぬまま生きてきたわけです。 袖触れ合うも他生の縁、と申します。 たとえ電車で隣り合っただけでも、何らかの縁があるということですから、友人になったり同僚になったり、さらには恋人になったり結婚したりするというのは、よほどの縁なのだろうと思います。 「ララピポ」は、軽く読める楽しい作品でありながら、そういった人の縁について考えさせられる力を持った小説でした。 ララピポって何のことかと思っていたら、作中、外国人が東京の印象を、a lot of peopleと述べ、ネイティブが発音す...
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バルタザールの遍歴

佐藤亜紀衝撃のデビュー作「バルタザールの遍歴」を読み終わりました。バルタザールの遍歴 (文春文庫)佐藤 亜紀文藝春秋 公爵家に生まれた体が一つで人格が二人の双子、クレヒオールとバルタザール。 普通は二重人格と呼ぶのかもしれませんが、二人は常に対話をし、互いに得意分野をゆずり、すくすくと成長していきます。 さらには、二人は幽体離脱というか、体を抜け出して生活する能力を持っていることが分かります。 ただし、抜け出したほうはパッと見には肉体的実体をもっているように感じられます。 影が無いことと鏡に写らないことを除いては。 ナチが台頭するウィーンを舞台に彼らの少年時代が描かれ、父の死後、パリに長期滞在し、大酒を喰らい、女と遊び、博打を打つ、放蕩三昧の生活を送ります。 金が無くなってくるとアフリカに渡り、安宿に泊まっては放蕩を繰り返す不良貴族です。 ここまで、ナチに付け狙われたり、ならず者に身ぐるみ剥がされたり、散々な目にあいます。 諧謔に満ちた格調高い文章で、SFっぽい驚くべき世界が描かれます。 そして物語は、「バルタザールの遍歴」と言うよりは、「クレヒオールとバルタザールの没落」とでも言うべ...
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ゆるめば死ぬる

今日は二十四節季で言う大暑。 「暦便覧」には「暑気いたりつまりたるゆえんなればなり」とあります。 一年中で最も暑い時季。 この前後、ウナギを食す習慣があり、今日のお昼はうな重を頂きました。  念力の ゆるめば死ぬる 大暑かな 村上鬼城の句です。 村上鬼城の世界松本 旭角川書店 いかにも不気味な句ですねぇ。 ひどい今年の暑さ、常人といえども、もし肝心の念力のゆるむ者がいたら、その者は直ちに病んで死んでしまうに違いない、と言ったほどの意かと思われます。 念力がゆるむとは、びっくりするくらいの暑さに気力が萎えて、ということでしょう。 エアコンが普及した現代では、ここまでの過酷な暑さは想像できません。  しかし、熱中症で命を落とす人が、わずかですが毎年出ます。 してみると、上の句、あながち昔の話とばかりも言えないのかもしれません。 にほんブログ村 人気ブログランキングへ
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夏籠や

いよいよ猛暑がやってきました。 職場も自宅もエアコンが効いているうえ、通勤も車なので、正直、ほとんど暑さを感じない夏が、20年ばかり続いています。 そういう意味では、現代の内勤者には、夏らしい夏は無いのかもしれませんね。 そういえば、夏の光に照らされて、毎日弁当を入れているバッグ、大分汚れていることに気づきました。 なんだか侘しい安サラリーマンを地で行っているようで、侘しくなりました。 夏籠や 月ひそやかに 山の上 村上鬼城の句です。 夏籠とは、夏のバッグ。 今風に言うならトートバッグということになりましょうか。 涼しげな夏籠と、妖しい光を放つ月の光との対比が面白いですねぇ。 でもあんまり強烈な暑さは感じられないというか、どちらかと言えば涼しげでさえあります。 わが国は夏が過酷で、建物にしても夏を快適に過ごせるように作られていますが、一方夏は儚くもあります。 冬のようなしつこさは無く、むしろすぐに秋になってしまうイメージです。 それが夏に激しくも物悲しげな彩りを添えるのかもしれません。
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イン・ザ・プール

名医なんだか藪なんだかよく分からない精神科医のもとを訪れる人々を描いた連作短編集「イン・ザ・プール」を読みました。イン・ザ・プール (文春文庫)奥田 英朗文藝春秋 伊良部総合病院の跡取り息子、伊良部医師は精神科医。 しかしそこを訪れる患者はほとんどいません。 伊良部医師はデブで色白で不潔感漂う中年男。 そこに、平凡な不定愁訴から、世にも珍しい起ちっぱなしに苦しむ陰茎強直症のサラリーマン、世の中の男がみなストーカーに思ってしまうモデル、携帯依存症の高校生などなどの患者が登場し、可笑しいやら切ないやら、楽しいユーモア小説集に仕上がっています。 伊良部医師の活躍を描いた続編に「空中ブランコ」という作品集があるようなので、そちらも読んでみようかと思います。空中ブランコ (文春文庫)奥田 英朗文藝春秋 いやぁ、笑いました。 喜劇は精神に良いようです。
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