Dデイ、あるいは平和を戦い取る

思想・学問

 今日は世界の歴史のなかでも、特に重要な日です。

 1944年のこの日、連合国軍が海を渡ってナチス・ドイツ支配下のフランス、ノルマンディー地方への侵攻を開始した、ノルマンディー上陸作戦の火蓋が切って落とされた日、通称、Dデイです。

 史上最大の作戦とも言われるこの戦い、ナチの崩壊の始まりを告げる戦闘でもありました。
 これによって、ナチは対ソビエトと対英米という二つの長大な戦線で戦うことになり、ついにはベルリンの総統官邸地下壕が落ちるまで、破滅への道を突き進んだのです。

 わが国はソビエトが突如として参戦するに及び、ナチの崩壊を知る人々は2正面作戦は不可能と判断したのでしょうか、本土決戦を避けて降伏するという道を選びました。
 これには連合国も拍子抜けしたことでしょう。
 わが国の狂信的な軍国主義者は、冷静な判断など出来ずに、ナチのように本土決戦を選び、宮城が落ちるまで戦い続けるだろうと思い込み、ために戦後の占領政策は、わが国が完全に崩壊した場合のみしか、シュミレーションしておらず、アジアなどに広大な領土を維持し、国家としての機能が生きているままの状態での占領を考えていなかったと聞き及びます。

 当初連合国が直接統治する予定だったところ、大日本帝國の統治機構に乗っかったほうが楽だと思ったのか、大日本帝國政府を残し、間接的に統治するという道を選びました。
 このことは、わが国の国民の最低限のプライドを維持するに大いに役立ったものと思われます。

 ノルマンディ上陸作戦は映画などでたびたび取り上げられ、名作「史上最大の作戦」を生みました。 

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ジョン・ウェイン,ヘンリー・フォンダ,クルト・ユルゲンス,ウェルナー・ヒンツ,ロバート・ミッチャム
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 それはそれは過酷で大規模な戦場となったことでしょう。

 ドイツは死にもの狂いで防戦に努め、連合国軍はノルマンディー地方を落とすのに2ヶ月を要したそうです。

 恒久平和を願いながら、人は争いの物語を好むものです。

 例えばNHK大河ドラマ。
 戦国時代や源平の合戦、幕末の動乱など、争いの時代を背景にしたものが圧倒的多数を占めます。

 また、サラリーマンのドラマでも、「華麗なる一族」など、権力闘争を描いた物語がたくさん製作されています。

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山崎豊子,山田信夫
東宝

 争いはいけないと言いながら、人はなぜ好んで争いの物語に接しようとするのでしょう。
 結局のところ、人は争うのが好きなのでしょうか?
 もし人間の本能が、人間同士の争いを求めるのだとしたら、恒久平和など、ちゃんちゃら可笑しい絵空事ということになってしまうような気がします。

 平和を戦いとる、とか、平和を勝ち取る、などという物言いは、そもそも矛盾しているように思いますが、平和を求める左がかった運動などでは、よく聞く言葉です。
 平和は、戦い取るものではありますまい。

 しかし、人が本能の部分で闘争を好むのだとしたら、そうであるからこそ、恒久平和を目指す運動は尊いのだろうとも思います。
 つまり、理性でもって、難事業に取り組むということですから。

 時代の要請が、人同士の争いを克服せしめることは、おそらく無いでしょう。
 人は人たることを自ら止めて、一段上の、神の領域にまで迫る気迫をもって、超人を目指すべきかもしれません。(ニーチェの「超人」とは関係ありません)

 その時こそ、人は本能を克服する端緒をつかむことができるでしょう。

 それははるか遠い未来ではありましょうが、求めなければ、恒久平和など、望むべくもありません。