わが国では、「ベルサイユのばら」だの「リボンの騎士」だの「転校生」だの、近いところでは新垣結衣と舘ひろしが入れ替わるドラマ「パパと娘の七日間」など、TSF(transsexual fantasy)と呼ばれる男女が入れ替わったり、女性が男性として活躍するお話がたくさんありますね。
TSFの本格的な物語の最初は、平安後期に成立したと伝えられる「とりかへばや物語」でしょう。
関白左大臣に男女一人づつ、子どもができます。
姫は活発で男らしい性格、若君は内気でおままごとなどを好む女性的な性格。
そんな二人の様子を見て、父関白はとりかへばや、と思いつき、姫を若君として、若君を姫君として育てることにします。
いたずらのようなこの方針、思いのほかうまくいって、若君は男として朝廷に出仕、出世街道をひた走ります。
姫君は姫君で、女として後宮に勤めます。
しかし、姫君は上司の女東宮に懸想してしまいます。
ついに、素性を明し、女東宮と通じてしまいます。
一方若君は、同僚の宰相中将に女であることを見破られたうえ関係を迫られ、彼の子を宿してしまいます。
本当ならこれで若君も姫君も身の破滅ですが、ここで二人は相諮り、若君が出産した後、こっそりそれぞれの立場を入れ替え、姫君は若君として、若君は姫君として、本来の性に戻ったばかりでなく、それぞれ相手ととりかえて、澄ました顔で朝廷、後宮で働き始め、ついには関白、中宮という当時最高の出世をしてめでたしめでたし、という結末で終わります。
つまり「とりかへばや物語」では最初異性へとりかえて、次に本来の性にとりかえて元に戻るという、二度のとりかえっこをしているのですねぇ。
性の倒錯はわが国文学の得意分野のようですねぇ。
舞台芸術でも、歌舞伎や能、宝塚など、異性装による芝居は大層な人気です。
近頃テレビを賑わせるマツコ・デラックスなどのおねえマンなんかも、わが国の伝統を背負っていると思うと、エールを送りたくなります。
ばつぐんに面白い「とりかへばや物語」ですが、男は男らしく女は女らしくという教育が間違いであることを如実に物語っていますね。
トランス・ジェンダーもその人のたくさんある属性の一つに過ぎません。
わが国伝統のトランス・ジェンダーを扱う文学や舞台芸術。
これからも良質の作品が作られることを望みます。
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