今宵はとっとと家に帰り、切ないファンタジーを鑑賞しました。
「スモーク」です。
ある晩、かつて脚本家を目指していたけれど、才能が無いことを自覚して諦めた若い女と、漫画家を目指して今も奮闘中の若い男が、バスで知り合います。
話をするうち、2人は近所で生まれ育ったことが分かり、親近感を深めます。
しかし不幸なことに、バスは事故に巻き込まれ、二人は昏睡状態に。
昏睡状態の2人は、意識の中だけで故郷における冒険を繰り広げます。
演劇にのめり込む少女と漫画製作にいそしむ少年。
2人はごく近所に住みながら、互いを知らずに育つのです。
意識の中の2人は、少年の頃描いた漫画と、少女時代に書いた演劇の脚本が交じり合ったような異世界で、互いに協力しあいながら、困難に立ち向かっていくのです。
その世界では、2人が幸せな少年少女時代を過ごした懐かしい故郷が、たびたび登場します。
しかし大人になった2人は、その世界では幽霊のように、懐かしい人々からは見ることもできず、声も届かないのです。
延々と続く異世界でのファンタジーの末、女は昏睡から目覚め、退院します。
退院してまず向かったのは、男の家。
男は先に退院して自宅で静養しています。
ただ、彼はほとんどの記憶を失っていたのです。
異世界での冒険をおのれ一人の夢だとは信じられない女は、男の記憶を蘇らせようと、会話を続けます。
そして男は、その記憶を取り戻すのです。
誰でも幸福な少年少女の頃、おのれの能力を超えた夢を見るものです。
そして多くは、それを諦めてしまいます。
かくいう私も、その一人です。
それだけに演劇にのめり込み、脚本家を夢見ながら諦めた少女は、今なお漫画で身を立てようとする男に惹かれるのでしょうね。
なんだかかつてのNHK少年ドラマシリーズのようなちゃちな作りでしたが、変にノスタルジーを感じさせる、佳品だったように思います。
しかし現実は冷酷なもの。
ファンタジーにひと時の慰めを求めるのも良いですが、社会というものはそんな甘いものではないと、変に現実を思い起こさせる作品でもありました。
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