幼く美しい怪物と、闇の処刑人

映画

 今宵、ウィスキーのロックをやりながら、DVDを鑑賞しました。
 近来稀に見る掘り出し物です。

 かつてこれほど美しい殺人鬼同士の争いを描いた映画があったでしょうか?

 「1800cc」です。



 1800ccとは、人が失血死する血液の量を示しています。

 小さな町で弁護士を営むスミス。

 数年前、妻が不倫の末、別れ話のもつれから不倫相手の家に放火し、相手の家族全員を死なせてしまったことから、スミス家は村八分状態に陥っています。
 有能な夫の弁護のおかげで妻は不起訴となりますが、町の人々はスミス家を呪われた家族として、夫への弁護の依頼も途絶えてしまったのです。

 ある晩、車が故障し、修理を依頼したが、明日の朝にならないと修理が来ないとのことで、痩せた男がスミス家に一夜泊めてほしいと言ってきます。
 一見して上品ななりをした、常識的な男に見えたため、スミス家は男を泊めることに。

 しかし男は、狂信的なキリスト教徒であり、現代米国の司法が裁けない罪人を殺害してまわる、闇の処刑人だったのです。

 外科医でもある男が編み出した完璧な殺害方法は、動脈から血液を抜き、失血死させること。
 この方法は最も苦痛が少なく、単なる快楽殺人鬼ではなく、正義を実行する者として編み出した最良の方法です。

 しかし、スミス家の問題は、不倫を楽しんだ妻にあるのではなく、小動物や小鳥を殺害することを好む娘にあったのです。

 男は一目で少女の昏い目に、殺人への欲求を読み取ります。
 そしてスミス夫妻と少女の兄を殺害した後、少女を自分の後継者に仕立て上げようと試みます。

 じつは母親が放火したのは、娘が不倫相手の家族をめった刺しにして殺害したことを糊塗するため。

 すべての問題は、少女にあったわけです。

 スミスはスタイリッシュな衣装を身にまとい、冷静に、自らが信じる使命=罪人の処刑にいそしみます。
 彼は自分こそが腐った米国社会の唯一の光だと信じています。

 少女はこの狂信的な殺人鬼と対決することになります。

 そして、男が繰り返し少女と自分は同じ目をしており、一緒に使命を全うできると説得するのに対し、たった一言、「わたしは殺すのが好きなだけよ」と言い放ちます。

 幼く美しい怪物である少女と、神の裁きの代理人を自認する闇の処刑人。

 二人はよく似ているようでいて、根本的に異なっていることが判明します。

 少女の手にかかり、まさに殺されようという瞬間にも、男は、少女に対し、「一生涯、私の姿を背負うだろう」と、不気味な予言を残し、死に至ります。

 少女はそれを見届けて、昏い目を隠そうともせず、いずこへともなく消え去るのです。

 美的でスタイリッシュな少女と大人の男の殺人劇という意味では、「イノセント・ガーデン」を彷彿とさせます。



 しかし「イノセント・ガーデン」がいかにも派手な作りなのに対し、「1800cc」は実録的というか、嘘くささが感じられません。

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 この手の映画では嘘くささも魅力の1つですが、嘘くささに頼った作品が多い中「1800cc」の地味な作り込みは、好感が持てます。

 快楽殺人を描いたサイコ野郎の映画は数知れず。

 しかし、幼いモンスターと、立派な中年である闇の処刑人との対決を描いた作品を、他に知りません。

 どこか意味深長な、哲学的香りさえ漂う佳品です。

 是非ご覧ください。



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