春風

文学

  春風吹きさぶ。

 そが音聞きつつ、我深酒す。

 酒、我をして物思い、いたらざずべからず

 我、中年より初老に至り、酒、我が魂(たま)、若き日々に誘わざるなし。

 酒、誘うまま、若き日に至れば、そは真、愚かなる精神なり。

 愚かなること知りたるまま、我が愚か懐かしむとは、如何に? 

 愚かほど、そは若さなり。

 我、若さ失うとて幾年。

 幾年、長き故思う。

 若さ、美し。

 されど、皺また美し。


 おのが皺、鏡に感得、我、美くしと思わざる能わず。

 我、後、春、覚ゆる幾度?

 幾たり春訪れようと、我、若かりし愚、懐かしむこと限りなし。