昨夜、カンヌ映画祭でパルムドールを受賞した作品を鑑賞しました。
「万引き家族」です
犯罪を生業とする偽りの家族の静かな日常が語られます。
おばあちゃん、お父さん、お母さん、10代後半と思しき長女、小学生の長男、の5歳の次女の物語。
いずれも血のつながりはなく、ちょっとしたこと、例えば実の親からの虐待などから偽の家族に助けられ、そのまま家族の一員になってしまったというような方法で偽家族は成立しています。
静かな日常のなかで、万引きなどの犯罪が繰り広げられます。
「スーパーに置いてある商品は、まだ誰の物でもないから盗ってもいいんだ」というお父さんの言葉。
リリー・フランキーがお父さんの役を演じて、怪しさ全開です。
お母さんの安藤サクラも熱演。
おばあちゃんの樹木希林も、偽家族の創設者として、家族から尊敬を集めています。
子供たちも、なかなかの好演です。
みんなで食卓を囲んだり、海水浴に行ったり。
幸せそうです。
そしてまた、物を食う場面がやたらと出てきます。
それはカップラーメンだったり、トウモロコシを茹でたものだったり、貧しい食卓ですが、不思議と旨そうに見えます。
おばあちゃんの死、長男の補導などにより、家族崩壊の危機を感じ、一家は夜逃げしようとして逮捕されます。
ここから、物語は暗転します。
静かな日常から、取り調べへ。
取り調べも、静かに進みます。
お母さんは取り調べで、誘拐を否定。
「捨てた誰かがいるから、拾ったのだ」と。
無茶苦茶ですが、不思議と胸を打ちます。
エンターテイメントではなく、美的な芸術映画でもない。
偽物でありながら、まるで本当のような、リアルな家族像が提示され、観る者は混乱します。
カンヌで10分ちかくスタンディング・オベーションが続いたと言いますから、玄人受けする作品なのでしょうね。
この静かな偽家族の物語。
誰も怒鳴ったり、喧嘩をしたりしません。
「血が繋がらないからこそ、良い面もある」というお母さんの言葉は印象的です。
実の子を虐待して、ひどい場合には死に至らしめたり、核家族化が進んで大家族が崩壊したり、家族を描く物語は、今こそ必要なのかもしれません。
それは偽物であればこそ、逆にリアリティを持つことがあります。
この切ない偽家族の物語に触れて、私は同居人と二人だけの家族であり、当然のことながら血のつながりはなく、紙切れ1枚の関係でしかないことを思い、慄然とします。
もしかしたら私も、リリー・フランキーのように、偽の家族を作り上げたいという昏い欲求を持っているのかもしれません。