文学

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新春能

千葉市文化センターで行われた新春能を鑑賞してきました。 どこかから補助金が出ているのか、2,500円と格安です。 曲は狂言が「金籐左衛門」。 大蔵流が演じます。 山賊の金籐左衛門は山道で女を脅して身の回りの持ち物を奪いますが、奪った袋の中の小袖や鏡に見とれて油断しているうちに、女に長刀をこっそり盗られてしまいます。 逆に女に身ぐるみはがされるという筋書きで、弱い善人が強い悪人をやっつけるという、狂言によくある逆転劇です。 気楽に観られる喜劇で、悲劇である能と喜劇である狂言とをセットで上演し、双方を総称して能楽と呼ぶわが国の舞台芸術の文化は、極めて洗練されていると言えましょう。 喜劇と悲劇は裏表ですからねぇ。 能は、「田村」です。 金春流の井上貴覚がシテを務めていました。 この人、いわゆる御曹司ではなく、サラリーマンの倅だったところ、高校時代に能の魅力に取り付かれ、法政大学の能楽研究所を卒業してから金春流に弟子入りしたという異色の経歴の持ち主です。 彼の目の付け所が良かったのは、弱小の金春流に弟子入りしたこと。 大所帯の観世流や宝生流では、生涯シテを務めることは出来なかったでしょう。 金...
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演劇? 舞踊?

あまり体調がすぐれず、一日ごろごろしていました。 たまにはこんな休日も良いでしょう。 明日は能見物に出かける予定です。 千葉市内の劇場で能公演がありますので。 かつてはよく国立能楽堂や観世能楽堂、宝生能楽堂まで足を運び、能を観ました。 フランス人の前衛舞台芸術の演出家が初めて能を観たとき、自分たちが前衛だと思っていた舞台芸術を、日本人は500年以上前に完成させていたのかと驚愕した、という話を聞いたことがあります。 極端に簡素化された舞台、道具に比して、衣装だけは豪華絢爛で、ストーリーは仏教説話や心霊譚をもとにした幻想的な雰囲気が魅力ですね。 オペラで言えばオーケストラにあたる地謡や鼓、笛に指揮者がいないことも、そのフランス人演出家が目指していたことのようです。 つまり演奏する者、謡う者、演じる者(舞う者)が互いに間を合わせ、誰にも指揮されないことを理想のハーモニーと考えたようです。 日本人が聞くと当たり前すぎて白けちゃうような話ではあります。 能は演劇なのか、舞踊なのか、という論争を時折見かけます。 一応ストーリーがあって、何人かの能楽師が出てきて物語を演じるという意味では演劇なのでし...
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ナチズムとオカルト

どうも体調がすぐれず、15時に早退しました。 その足で内科へ。 軽い風邪ということで、薬をもらって飲んだら急に元気になりました。 現代医学の威力は怖ろしいばかりです。 で、元気になると、性懲りもなくホラーが観たくなるのが私の悲しい性。 「デビルズ・ロック」というのを借りてきました。 ノルマンディー上陸作戦前日。 連合軍はナチス・ドイツの目をノルマンディーからそらすため、イギリス海峡の島々で破壊工作を行います。 その中の小島に、連合軍の一員であるニュージーランドの工作部隊が密かに潜入。 砲台を破壊します。 任務はそれだけだったのですが、要塞の中から間断なく女の悲鳴が聞こえてきます。 拷問が行われていると確信したニュージーランド兵は無謀にも要塞に潜入します。 そこで見たのは、あまたのドイツ兵の遺体。 唯一要塞にいたのは、ナチス・ドイツのSS大佐でした。 彼が言うには、ヒトラーの命を受け、地獄から悪魔を呼び出し、これを兵器としてロンドンに送り込む予定だったが、想像以上に悪魔の力が強く、人肉を喰らう悪魔にドイツ兵の大半が食われてしまったのだとか。 悲鳴を上げていたのは、悪魔封じにかけられた悪魔...
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ドリーム・ホーム

昨夜は香港の殺人劇をDVDで鑑賞しました。 香港は英国領であった当時、映画産業が盛んでした。 ブルース・リーやジャッキー・チェンやトニー・レオンなどのスターを生み、ジョン・ウ―やウォン・カーウァイなどの名監督を輩出しました。 しかし、1997年に英国は香港を中国に返還。 中国は香港を特別行政区とし、それまでどおり表現の自由を認めると表明しましたが、香港映画界は急速に衰退してしまいました。 政治が文化にどれだけ強い影響を与えるかを思い知らされましたね。 昨夜観た「ドリーム・ホーム」、1991年、1997年、2004年の時制を倒錯させながら、時代の波に翻弄される香港の若い女性が狂気の大量殺人に走る姿が描き出されます。 1991年、香港返還を数年後に控えた香港政府は海岸沿いの老朽化した団地を取り壊し、住民に引っ越しを迫ります。 そんな中、海が見える団地で育った少女は、漁師の祖父や、海沿いに住みたいと言う祖母や両親の願いを叶えるため、いつかベイ・エリアに家を買うのだと決意します。 不動産バブルが高騰する中、ベイ・エリアのマンションの値段は急騰。 大人になった彼女は昼は銀行で働き、夜はデパートで...
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からっぽ

おそらく日本文学史上、最もシニカルで、それでいて耽美主義的で、擬古典的な、矛盾する要素をたくさん持ちながら、完成度の高い文学作品を書き続けた作家は、三島由紀夫をおいて他にはおりますまい。 私は学生時代、多くの古典を大学の要請により読みましたが、当時最も心酔していたのは、三島由紀夫と石川淳と渋澤龍彦でした。 なかでも政治的発言が多く、最後は自衛官にクーデターを起こすよう決起を促し、割腹して果てるというその生き様死に様は、良くも悪くも私の精神形成に大きな影響を与えました。 彼は自決の四か月前、ある雑誌に日本の未来を予言する寄稿を寄せています。 私はこれからの日本に大して希望をつなぐことができない。このまま行つたら「日本」はなくなつてしまうのではないかといふ感を日ましに深くする。日本はなくなつて、その代はりに、無機的な、からつぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、或る経済的大国が極東の一角に残るのであらう。それでもいいと思つてゐる人たちと、私は口をきく気にもなれなくなつてゐるのである。 三島由紀夫の自決から42年、現在のわが国は彼の予言どおりになったでしょうか。 今のわが国は無...
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